【短編集】あなたのためを思って言っているのよ?
それから数日、ミゲルの宣言どおり、アンジュは屋敷を出ることができなかった。数日間食事を抜いた状態で移動を続けた結果、物理的に体が動かなかったし、侍女たちにしっかりと見張られているためだ。
「こんな状態で屋敷からお出ししたら、旦那さまとミゲル様に叱られてしまいます。アンジュ様はミゲル様の命の恩人です。丁重にもてなすようにと厳命されておりますのに」
脱走を試みるアンジュに向かって、侍女たちはそう言って唇を尖らせた。
彼女たちは目が覚めた時から、湯浴みや食事など、何くれとなく世話をしてくれ、アンジュは申し訳なくてたまらない。自分にはそんな価値ないのに――そう言いたくてたまらなかった。
「早くここから出たいなら、きちんと食事をとらないとね」
ミゲルはそう言って頻繁にアンジュの元を訪れた。朝昼晩の食事の時間はもちろん、お茶菓子などを持参してはアンジュを構いたがる。
「ミゲル様、あの……あたしはもう平気ですから。そろそろここから出してください」
あれから数日、体力は既に完全に回復していた。これ以上ここにいていい理由は存在しないと、アンジュは小さくため息を吐く。
「ダメだよ、まだ。こんなに痩せ細ってるし」
「そういう体質なんです。本当に大丈夫ですから」
「大丈夫じゃないよ。行く宛もないのに。放っておいたらまた、倒れてしまうかもしれないだろう?」
うっ、とアンジュが返答に詰まる。
アンジュが故郷を出た理由自体は教えていないものの、ミゲルからは帰る家がないことを察せられてしまっている。
「いいんですよ、倒れたって。あたしのことなんてどうでも……」
「よくないよ」
ミゲルが真剣な表情でアンジュを見つめる。彼はアンジュの手を握ると、小さくため息を吐いた。
「アンジュは僕の命を助けてくれた恩人だ。どうでもいいだなんて言わず、もっと自分のことを大事にしてほしい」
「恩人だなんて……そんなふうに思わなくていいです。あたしは、あたしにできることをしただけですから。こんな能力、大っ嫌いですし」
言いながら、胸が塞がっていく。
治癒の能力のことを考えると、どうしてもオーガストのことを思い出してしまう。彼にいいように使われていた過去を。自分自身にはなんの価値もないことを……。
「こんな状態で屋敷からお出ししたら、旦那さまとミゲル様に叱られてしまいます。アンジュ様はミゲル様の命の恩人です。丁重にもてなすようにと厳命されておりますのに」
脱走を試みるアンジュに向かって、侍女たちはそう言って唇を尖らせた。
彼女たちは目が覚めた時から、湯浴みや食事など、何くれとなく世話をしてくれ、アンジュは申し訳なくてたまらない。自分にはそんな価値ないのに――そう言いたくてたまらなかった。
「早くここから出たいなら、きちんと食事をとらないとね」
ミゲルはそう言って頻繁にアンジュの元を訪れた。朝昼晩の食事の時間はもちろん、お茶菓子などを持参してはアンジュを構いたがる。
「ミゲル様、あの……あたしはもう平気ですから。そろそろここから出してください」
あれから数日、体力は既に完全に回復していた。これ以上ここにいていい理由は存在しないと、アンジュは小さくため息を吐く。
「ダメだよ、まだ。こんなに痩せ細ってるし」
「そういう体質なんです。本当に大丈夫ですから」
「大丈夫じゃないよ。行く宛もないのに。放っておいたらまた、倒れてしまうかもしれないだろう?」
うっ、とアンジュが返答に詰まる。
アンジュが故郷を出た理由自体は教えていないものの、ミゲルからは帰る家がないことを察せられてしまっている。
「いいんですよ、倒れたって。あたしのことなんてどうでも……」
「よくないよ」
ミゲルが真剣な表情でアンジュを見つめる。彼はアンジュの手を握ると、小さくため息を吐いた。
「アンジュは僕の命を助けてくれた恩人だ。どうでもいいだなんて言わず、もっと自分のことを大事にしてほしい」
「恩人だなんて……そんなふうに思わなくていいです。あたしは、あたしにできることをしただけですから。こんな能力、大っ嫌いですし」
言いながら、胸が塞がっていく。
治癒の能力のことを考えると、どうしてもオーガストのことを思い出してしまう。彼にいいように使われていた過去を。自分自身にはなんの価値もないことを……。