【短編集】あなたのためを思って言っているのよ?
***


 ミゲルと暮らす日々は、穏やかで温かく、アンジュの心を癒やしてくれた。


『アンジュが自分で自分を大事にできないなら、僕が君を大事にするよ』


 その言葉どおりに、ミゲルはアンジュを大事にしてくれた。アンジュが自分を卑下するたびに、違うよと優しく諭してくれる。そうしているうちに、オーガストとの過去がバカバカしくなっていき、どうでもよくなっていく。このままここで穏やかに暮らせたら――そう思うようになるまでに、時間はかからなかった。


(あたしが治癒の能力を使えば、このままこの街に――ミゲル様の側にいてもいい?)


 領主の息子であるミゲルにとって、アンジュは有用なコマになるだろう。……かつてオーガストが彼女を都合のいい女として扱ったのと同じように。


(バカみたい)


 何度同じ過ちを繰り返せば気が済むのだろう? 都合のいい女でいるのが嫌だから、故郷を飛び出してきたはずなのに。結局自分が頼れるのは、己の価値は、神様から与えられた特別な能力だけなのだろうか? 


「え? 街の人に治癒を?」

「はい。お世話になったお礼をしなければ、と思いまして。それまでこの街に滞在できたら、と」


 それでも、ここに――ミゲルの側にいてもいい理由がほしい。尋ねながら、アンジュの胸がドキドキと鳴る。


「そんなことしなくていいよ」

「え? でも……」


 断られるなんて想像もしていなかった。病気や怪我が簡単に治れば、誰だって嬉しいに違いない。領地も潤い、絶対に助かるはずなのに。


< 40 / 131 >

この作品をシェア

pagetop