桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~
『また迷子になるわよ。アリス。もう、懲りないのね』
リズには何度も迷惑かけた。それでもリズはいつだって嫌な顔一つせずに遊んでくれた。心優しくて面倒見のいい大事な親友。
ジャックさんとも何度もトランプをして遊んだ。
『アリス殿! もう一回勝負ですぞ!』
『えー、これで三回目だよ?』
ジャックさんはトランプとなると必ず勝つまでやる負けず嫌い。子供相手に真剣にトランプをしている姿は微笑ましかった。
住み慣れた城。この城は私の唯一の居場所。
ウサギの時計を止めれば、みんなを守ることが出来る。世界の崩壊を防ぐ為にも、絶対にウサギの時計を止めなくちゃ。
また、みんなと笑えるように。私の大好きな人達を死なせないために。ちゃんとどちらかを選んで、ウサギの時計を止めてみせる――
「よし!」
「アリス?」
「わぁっ!」
急に後ろから声をかけられて、反射的に身体がとび跳ねる。振り向くと、チェシャ猫が立っていた。相変わらずフードは被ったままだ。
「びっくりした。チェシャ猫は着替えなかったの?」
「目立ちたくないんだよ」
「ふふ、フードを被った方が目立っているよ?」
目立つ上に、正直ちょっとだけ怪しい。
「フードがあった方が、安心するんだよ」
「安心する? どうして?」
チェシャ猫は黙ってしまった。好奇心が災いした。聞いちゃいけなかったかもしれない。
「知らない方がいいこともあるんだよ」
チェシャ猫の声に少し哀しさが混じる。世間一般の『知らない方が良い事がある』というのは、大人が子供を諭すときに使う言葉だ。
きっと何か嫌な気持ちになるのかも、と、知らないままで良いと思ってきた。けれど、今のチェシャ猫の言い方は、聞かれたくない、という拒絶の意味だ。今は聞けない。
「さっきは悩んでいたようだけど、気持ちの整理が出来たみたいだね」
先程の気合を見られたことを思い出し、少しだけ耳が熱くなる。
「う、ん。考えたの。ウサギの時計を止めれば、大切なみんなを守ることが出来る。だから、世界の崩壊を防ぐ為にも、絶対にウサギの時計を止めなくちゃ」
「うん、悩んでいない今の方が、君らしいね」
唯一見える口元が微笑んだ。ひと呼吸おくと、チェシャ猫が再び唇を開く。
「アリス、お誕生日おめでとう」
チェシャ猫から祝ってもらえるとは思わなかったので、予想外の一言に、思わずきょとんとしてしまう。
「さっき言いそびれたからね」
チェシャ猫のしっぽが下がっていくのが見えた。可愛い。
「だから、これしかプレゼント出来ない。ごめんね」
チェシャ猫の手には花が一輪。手のひらに乗る小さな赤い花。薔薇のように花弁が重なってない、シンプルさがあるアネモネの花は、本で見かけたことがあった。
「アネモネ? わぁ、綺麗! ありがとう」
「うん。街で買ったんだ。目を閉じて」
大人しく目を閉じると、フワリとアネモネの香りが漂う。手が遠退く気配がしてそっと目を開けると、さっきよりも間近にきたチェシャ猫の顔があった。一瞬だけ瞳が見えた気がして、ドキリと胸が高鳴る。髪を触ると、チェシャ猫の手にあったアネモネが髪に挿してあった。
「可愛いよ」
心臓がドキドキ脈打って、激しく動揺しているのが自分でも分かった。頬に触れると、手袋の布越しにほんのり熱を感じる。
「あ、ありがとう。じゃ、じゃあ中に戻るね! 花、ありがとう!」
リズには何度も迷惑かけた。それでもリズはいつだって嫌な顔一つせずに遊んでくれた。心優しくて面倒見のいい大事な親友。
ジャックさんとも何度もトランプをして遊んだ。
『アリス殿! もう一回勝負ですぞ!』
『えー、これで三回目だよ?』
ジャックさんはトランプとなると必ず勝つまでやる負けず嫌い。子供相手に真剣にトランプをしている姿は微笑ましかった。
住み慣れた城。この城は私の唯一の居場所。
ウサギの時計を止めれば、みんなを守ることが出来る。世界の崩壊を防ぐ為にも、絶対にウサギの時計を止めなくちゃ。
また、みんなと笑えるように。私の大好きな人達を死なせないために。ちゃんとどちらかを選んで、ウサギの時計を止めてみせる――
「よし!」
「アリス?」
「わぁっ!」
急に後ろから声をかけられて、反射的に身体がとび跳ねる。振り向くと、チェシャ猫が立っていた。相変わらずフードは被ったままだ。
「びっくりした。チェシャ猫は着替えなかったの?」
「目立ちたくないんだよ」
「ふふ、フードを被った方が目立っているよ?」
目立つ上に、正直ちょっとだけ怪しい。
「フードがあった方が、安心するんだよ」
「安心する? どうして?」
チェシャ猫は黙ってしまった。好奇心が災いした。聞いちゃいけなかったかもしれない。
「知らない方がいいこともあるんだよ」
チェシャ猫の声に少し哀しさが混じる。世間一般の『知らない方が良い事がある』というのは、大人が子供を諭すときに使う言葉だ。
きっと何か嫌な気持ちになるのかも、と、知らないままで良いと思ってきた。けれど、今のチェシャ猫の言い方は、聞かれたくない、という拒絶の意味だ。今は聞けない。
「さっきは悩んでいたようだけど、気持ちの整理が出来たみたいだね」
先程の気合を見られたことを思い出し、少しだけ耳が熱くなる。
「う、ん。考えたの。ウサギの時計を止めれば、大切なみんなを守ることが出来る。だから、世界の崩壊を防ぐ為にも、絶対にウサギの時計を止めなくちゃ」
「うん、悩んでいない今の方が、君らしいね」
唯一見える口元が微笑んだ。ひと呼吸おくと、チェシャ猫が再び唇を開く。
「アリス、お誕生日おめでとう」
チェシャ猫から祝ってもらえるとは思わなかったので、予想外の一言に、思わずきょとんとしてしまう。
「さっき言いそびれたからね」
チェシャ猫のしっぽが下がっていくのが見えた。可愛い。
「だから、これしかプレゼント出来ない。ごめんね」
チェシャ猫の手には花が一輪。手のひらに乗る小さな赤い花。薔薇のように花弁が重なってない、シンプルさがあるアネモネの花は、本で見かけたことがあった。
「アネモネ? わぁ、綺麗! ありがとう」
「うん。街で買ったんだ。目を閉じて」
大人しく目を閉じると、フワリとアネモネの香りが漂う。手が遠退く気配がしてそっと目を開けると、さっきよりも間近にきたチェシャ猫の顔があった。一瞬だけ瞳が見えた気がして、ドキリと胸が高鳴る。髪を触ると、チェシャ猫の手にあったアネモネが髪に挿してあった。
「可愛いよ」
心臓がドキドキ脈打って、激しく動揺しているのが自分でも分かった。頬に触れると、手袋の布越しにほんのり熱を感じる。
「あ、ありがとう。じゃ、じゃあ中に戻るね! 花、ありがとう!」