桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~
 冷ましたはずの体の熱も上がった気がして、いてもたってもいられない。逃げるように城の中に戻ると、終焉の曲が流れパ―ティ―は終わりへと近づいていた。ベランダの方を振り返ると、チェシャ猫の後ろ姿が見える。思わず逃げてしまったけれど、チェシャ猫の背中、少しだけ寂しそうに見えた。
「チェシャ……」
「アリス!」 
 ベランダに引き換えそうとすると、後ろから伸びてきた手に引き止められる。
「もう、探したのよ。パ―ティ―がもうじき終わるからって女王様が探していたわよ」
「挨拶!? 恥ずかしいよ!」
「ダメよ、ほら、行かなくちゃ」
 リズに引っ張られるがまま、舞台裏へと連行される。幕の影から覗けば、大勢の人達が会話を楽しんでいるのが見えた。女王様はすでに待機してこちらを睨んでいる。
「こんな大勢の前で挨拶するの?」
「今日はアリスが主役でしょ、観念なさい」
「だって!」
 緊張するよ! そう言いかけた瞬間、焦ったトランプ兵が駆けてくるのが見えた。嫌な予感が背筋を走る。
「大変です! スペード兵が見張っていた黒ウサギと、ダイヤの兵が見張っていた白ウサギ、どちらも見失ったとのこと! 城に現れる気配もありません!」
 予感は的中して、思わず目の前が真っ暗になった。女王様を見ると、驚きはしたものの、すぐに冷静な表情に戻る。それは経験の差を思い知らせた。そして、これが初めてではないのだと、直感的にわかる。
「そう、ならアリス。状況が変わったわ。こうしている間にも崩壊は進んでいる。チェシャ猫と共に、ウサギを追いなさい」
「アリス!」
 よろめいた私の肩をリズが支えてくれた。
 刻限に訪れるウサギのどちらかの時計を止めればいい。そんな考えが甘かったということを、むざむざと目の前に突きつけられた気がした。
 こんな私に、ウサギを追って時計を止めることができるのかな?
「大丈夫だよ。僕がいる」
 最悪の時がきたのに、ふわりと目の前に現れたチェシャ猫に、少しだけ希望が覗いた気がした。挿してもらったアネモネに触れると、覚悟が思い出される。
『住み慣れた城。この城は私の唯一の居場所』
『ウサギの時計を止めれば、大切なみんなを守ることが出来る。世界の崩壊を防ぐ為にも、絶対にウサギの時計を止めなくちゃ。また、みんなと笑えるように。私の大好きな人達を死なせないために。絶対、ウサギの時計を止めてみせる――』
「リズ、ありがとう。もう大丈夫」
「アリス」
「私、ウサギを追いかけるよ」
 もう一度心に刻んだ。絶対に私は世界の崩壊を止める。そして、この街に帰ってくる。この街で、また笑えるように。

< 11 / 209 >

この作品をシェア

pagetop