桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~
「アリス! 俺はチェシャ猫みたいに優しい守り方なんて出来ない! 手を離すけど恐れるな、迷うな!」
私の手をひく黒ウサギの背中を見つめる。チェシャ猫とは違う、強さがある背中。私を強くしてくれる背中。前はあんなに悲しかったのに、今は黒ウサギの背中を見るだけで心強くなれる。一緒に戦って、強くなっていける。それが堪らなく嬉しい。
黒ウサギの的確な誘導もあり、兵士の合間を縫うように前へ進む。何度か兵士の攻撃を受けたけれど、全て上手く躱していく。その間に繋いだ手が離れたけど、怖くなんてない。離れても私はその背中を追う。前に進む。
「今がチャンスだ! 一気にかけあがれ!」
「うん!」
強く床を蹴り、階段の上へと昇る。上へ、上へ。私の姿が皆に見える位置へ。
ある程度登ったところで、後ろを振り返る。ここならきっと大丈夫。
膝を机から離し、ゆっくりと立ち上がる。バランスを崩さないように、足裏に力を込めた。息を吐き、そして吸う。心臓がバクバクと暴れている。足も震える。けど、今しかない。
「私は、アリスはここ! 女王様、トランプ兵、見て!」
生まれて初めて喉が擦りきれそうなくらい声を張り上げる。そして、片手に持った懐中時計を頭上に持ち上げる。
「兵士達、静まれ!」
私の動きに気付いた女王様が、声を同じように張り上げる。今まで戦っていた兵士達が動きを止め、視線は一斉に私へと集まった。多くの視線に恐れを抱いてしまう前に、私は声を張り上げた。
「世界の崩壊は目の前に迫っている。なのに、我が儘を言ってごめんなさい」
「アリス! 一体何を」
エースと戦っていたチェシャ猫も、驚いた表情で私を見上げていた。
「チェシャ猫、ごめんね。女王様、私の負けです。今から時計を止めます」
黒ウサギから渡された懐中時計。掲げていたそれを下ろし、動く秒針を見つめた。これを止めたら白ウサギが消える。
「ごめんなさい、白ウサギ」
『全てを知り、僕らを、この世界を助けて下さい。それが僕の願いです』
瞼の裏に浮かんだ彼を思い出して、熱い雫が頬を伝う。白ウサギの慌てた顔、真剣な顔、笑った顔。色んな白ウサギを思い出す。彼と過ごした僅かな時を思い出す。彼の言葉もコロコロ変わる表情も、鮮明に覚えている。
会えたのはほんの一時。だけど私にとって、白ウサギとの時間はどんな時間よりも濃いものだった。
私に願いを気付かせてくれた人。心を強くしてくれた人。黒ウサギは私を強くしてくれる。けれど白ウサギは、私に変わるきっかけを作ってくれた。願いに気づくことがなければ、崩壊を目の前にした時に、私は多くの事を見逃していたかもしれない。
呪いに人生を狂わされた誰かの苦しみ。生きたいという隠された願い。呪いが繰り返された先の未来。
旅を始めたばかりの私のままだったらと思うと、失うものの多さに身体の力が抜ける。
とても大切な人。私達の仲間。そう、大切だから私は。
「お願い! 時計の時間! 世界の崩壊! 止まって!」
懐中時計が光る。強く、世界を包むような光。懐中時計から発せられた光は、裁判所内を照らし、トランプ兵をも包んだ。懐中時計はやがて輝くことを止め、光は瞬く間に消える。
「止まった、の?」
手元にある懐中時計を見ると、時を刻んでいた秒針は動かず、数分経っても針は動くことはなかった。
「止まったのか?」
「崩壊はどうなったんだ?」
先ほどまで戦っていたトランプ兵は口々に疑問を口にする。
女王様に視線を移すと、気難しい顔をしたままの女王様が、懐中時計をじっと見つめていた。
私の手をひく黒ウサギの背中を見つめる。チェシャ猫とは違う、強さがある背中。私を強くしてくれる背中。前はあんなに悲しかったのに、今は黒ウサギの背中を見るだけで心強くなれる。一緒に戦って、強くなっていける。それが堪らなく嬉しい。
黒ウサギの的確な誘導もあり、兵士の合間を縫うように前へ進む。何度か兵士の攻撃を受けたけれど、全て上手く躱していく。その間に繋いだ手が離れたけど、怖くなんてない。離れても私はその背中を追う。前に進む。
「今がチャンスだ! 一気にかけあがれ!」
「うん!」
強く床を蹴り、階段の上へと昇る。上へ、上へ。私の姿が皆に見える位置へ。
ある程度登ったところで、後ろを振り返る。ここならきっと大丈夫。
膝を机から離し、ゆっくりと立ち上がる。バランスを崩さないように、足裏に力を込めた。息を吐き、そして吸う。心臓がバクバクと暴れている。足も震える。けど、今しかない。
「私は、アリスはここ! 女王様、トランプ兵、見て!」
生まれて初めて喉が擦りきれそうなくらい声を張り上げる。そして、片手に持った懐中時計を頭上に持ち上げる。
「兵士達、静まれ!」
私の動きに気付いた女王様が、声を同じように張り上げる。今まで戦っていた兵士達が動きを止め、視線は一斉に私へと集まった。多くの視線に恐れを抱いてしまう前に、私は声を張り上げた。
「世界の崩壊は目の前に迫っている。なのに、我が儘を言ってごめんなさい」
「アリス! 一体何を」
エースと戦っていたチェシャ猫も、驚いた表情で私を見上げていた。
「チェシャ猫、ごめんね。女王様、私の負けです。今から時計を止めます」
黒ウサギから渡された懐中時計。掲げていたそれを下ろし、動く秒針を見つめた。これを止めたら白ウサギが消える。
「ごめんなさい、白ウサギ」
『全てを知り、僕らを、この世界を助けて下さい。それが僕の願いです』
瞼の裏に浮かんだ彼を思い出して、熱い雫が頬を伝う。白ウサギの慌てた顔、真剣な顔、笑った顔。色んな白ウサギを思い出す。彼と過ごした僅かな時を思い出す。彼の言葉もコロコロ変わる表情も、鮮明に覚えている。
会えたのはほんの一時。だけど私にとって、白ウサギとの時間はどんな時間よりも濃いものだった。
私に願いを気付かせてくれた人。心を強くしてくれた人。黒ウサギは私を強くしてくれる。けれど白ウサギは、私に変わるきっかけを作ってくれた。願いに気づくことがなければ、崩壊を目の前にした時に、私は多くの事を見逃していたかもしれない。
呪いに人生を狂わされた誰かの苦しみ。生きたいという隠された願い。呪いが繰り返された先の未来。
旅を始めたばかりの私のままだったらと思うと、失うものの多さに身体の力が抜ける。
とても大切な人。私達の仲間。そう、大切だから私は。
「お願い! 時計の時間! 世界の崩壊! 止まって!」
懐中時計が光る。強く、世界を包むような光。懐中時計から発せられた光は、裁判所内を照らし、トランプ兵をも包んだ。懐中時計はやがて輝くことを止め、光は瞬く間に消える。
「止まった、の?」
手元にある懐中時計を見ると、時を刻んでいた秒針は動かず、数分経っても針は動くことはなかった。
「止まったのか?」
「崩壊はどうなったんだ?」
先ほどまで戦っていたトランプ兵は口々に疑問を口にする。
女王様に視線を移すと、気難しい顔をしたままの女王様が、懐中時計をじっと見つめていた。