桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~
あの街を去るとき、魔物が押し寄せてきていたことを思い出す。
帽子屋に眠りネズミ、仕立て屋、そして夢魔。
「皆、無事でいて」
ポツリと出た願いを汲み取ったのか、チェシャ猫が頭を撫でてくれる。それだけでも十分だった。
あの四人ならきっと大丈夫。そう信じたい。
「思い立ったが吉日、作戦結構だ」
「はい!」
珍しく言い切れたダイヤの王子の言葉を合図に、全員が動き出す。
「ウサギの穴はこちらです。アリス、最後まで貴女を信じます。頼めますか?」
それだけ告げて差し出される白ウサギの手。青い瞳が強く信頼を伝えてきていた。最後の言葉、それは一度目のお別れの時にも聞いた言葉。
『アリス、頼めますか?』
一度目のお別れの時、白ウサギはこう言った。託されたのは黒ウサギへの想い、世界の未来。
これは決意の問いだ。今度は分かり合う為じゃなく、本当の意味で白ウサギの願いを叶える為に。一緒に生きる、その為に。私は白ウサギの手を握った
「私、呪いを解くよ」
ふわり、と白ウサギは表情を綻ばせる。
王室の重い扉が音を立てて開く。金で出来た豪華な棒状のノブには触れることなく、私達は外に出る。
ハンプティが案内してくれたのは花が溢れる城の庭で、ハンプティと出会った場所だ。進んだ先を見ると、そこにはやっぱり、ぽかんと地面に大きな穴が空いている。
「行こう。女王様のところへ」
私の言葉を合図にして、穴へと飛び込む。
今度は逃げない。残酷な真実に目を背けたりはしない。
だからどうか、希望よ、終えないで。
夢をみる。それは遠い遠い昔、泣き虫な少女と傲慢な少年の話。
『俺が特別にお前をいじめるやつから守ってやる。だから泣き止め』
『うん、もう、泣かない』
そんな約束をしたのは出会って少しのこと。泣き虫な私にとって彼は憧れだった。なのに。
『グリフォンとして生きられないなら、死んだのと同じだ。俺を殺せ』
その言葉を最期に、彼は死んでしまった。
それはあの暗黒に覆われた日。怖い魔女が彼の翼を切って、彼は全てを失った。
空を飛ぶ力。不思議の国一番の強さ。私を慰めてくれる優しさ。信念、誇り、誠実さ、プライド。
大好きだったのに。彼の信念も誇りも誠実さも優しさも翼も。
翼は彼の心そのものだったと思う。浜辺で空虚を映す瞳にもう心はなくて、私を守ってくれた強さは見当たらない。その証拠に私が目の前で泣いても、もう彼は言葉を発することもしない。出来ない。翼が、心がないから。身体は生きているのに、心は魔女に殺された。
私もただ、泣きながら彼を見つめることしか出来なかった。彼の代わりに出来るのは、ただこれだけ。
魔女の悪戯。怖い魔女は彼から奪った力を私に与えた。彼より強くなった私。けれど泣き虫で無力な私を、魔女は嘲笑った。力があっても、泣き虫な海ガメの私には何もする事が出来ないのだと。
辛かった。悔しかった。けれど彼は私以上に絶望していた。
翼をもがれる前、彼は私に話していた。自分がグリフォンであること、それが誇りだと。
誰もが羨む空を自由に飛べる翼。女王の命令に縛られない傲慢さ。不思議の国一番の強さ。それは彼のプライドでもあって、誇り。それなら。
考えついたのは、可笑しなハナシ。泣き虫な、私なりの守り方。
『名前を、守る。だから、今日から私が――』
それは千四百年も前、海ガメが作った、嘘のハジマリのハナシ。
うっすらと、物語から目が覚める。私を抱きしめるチェシャ猫の温もりを感じながら、頭を叩く衝撃に意識を向ける。
「あ、やっと起きましたー?」
「海ガメ」
帽子屋に眠りネズミ、仕立て屋、そして夢魔。
「皆、無事でいて」
ポツリと出た願いを汲み取ったのか、チェシャ猫が頭を撫でてくれる。それだけでも十分だった。
あの四人ならきっと大丈夫。そう信じたい。
「思い立ったが吉日、作戦結構だ」
「はい!」
珍しく言い切れたダイヤの王子の言葉を合図に、全員が動き出す。
「ウサギの穴はこちらです。アリス、最後まで貴女を信じます。頼めますか?」
それだけ告げて差し出される白ウサギの手。青い瞳が強く信頼を伝えてきていた。最後の言葉、それは一度目のお別れの時にも聞いた言葉。
『アリス、頼めますか?』
一度目のお別れの時、白ウサギはこう言った。託されたのは黒ウサギへの想い、世界の未来。
これは決意の問いだ。今度は分かり合う為じゃなく、本当の意味で白ウサギの願いを叶える為に。一緒に生きる、その為に。私は白ウサギの手を握った
「私、呪いを解くよ」
ふわり、と白ウサギは表情を綻ばせる。
王室の重い扉が音を立てて開く。金で出来た豪華な棒状のノブには触れることなく、私達は外に出る。
ハンプティが案内してくれたのは花が溢れる城の庭で、ハンプティと出会った場所だ。進んだ先を見ると、そこにはやっぱり、ぽかんと地面に大きな穴が空いている。
「行こう。女王様のところへ」
私の言葉を合図にして、穴へと飛び込む。
今度は逃げない。残酷な真実に目を背けたりはしない。
だからどうか、希望よ、終えないで。
夢をみる。それは遠い遠い昔、泣き虫な少女と傲慢な少年の話。
『俺が特別にお前をいじめるやつから守ってやる。だから泣き止め』
『うん、もう、泣かない』
そんな約束をしたのは出会って少しのこと。泣き虫な私にとって彼は憧れだった。なのに。
『グリフォンとして生きられないなら、死んだのと同じだ。俺を殺せ』
その言葉を最期に、彼は死んでしまった。
それはあの暗黒に覆われた日。怖い魔女が彼の翼を切って、彼は全てを失った。
空を飛ぶ力。不思議の国一番の強さ。私を慰めてくれる優しさ。信念、誇り、誠実さ、プライド。
大好きだったのに。彼の信念も誇りも誠実さも優しさも翼も。
翼は彼の心そのものだったと思う。浜辺で空虚を映す瞳にもう心はなくて、私を守ってくれた強さは見当たらない。その証拠に私が目の前で泣いても、もう彼は言葉を発することもしない。出来ない。翼が、心がないから。身体は生きているのに、心は魔女に殺された。
私もただ、泣きながら彼を見つめることしか出来なかった。彼の代わりに出来るのは、ただこれだけ。
魔女の悪戯。怖い魔女は彼から奪った力を私に与えた。彼より強くなった私。けれど泣き虫で無力な私を、魔女は嘲笑った。力があっても、泣き虫な海ガメの私には何もする事が出来ないのだと。
辛かった。悔しかった。けれど彼は私以上に絶望していた。
翼をもがれる前、彼は私に話していた。自分がグリフォンであること、それが誇りだと。
誰もが羨む空を自由に飛べる翼。女王の命令に縛られない傲慢さ。不思議の国一番の強さ。それは彼のプライドでもあって、誇り。それなら。
考えついたのは、可笑しなハナシ。泣き虫な、私なりの守り方。
『名前を、守る。だから、今日から私が――』
それは千四百年も前、海ガメが作った、嘘のハジマリのハナシ。
うっすらと、物語から目が覚める。私を抱きしめるチェシャ猫の温もりを感じながら、頭を叩く衝撃に意識を向ける。
「あ、やっと起きましたー?」
「海ガメ」