桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~
ぼーっとする頭に、残る残像。一代目の海ガメの記憶の悲しさに胸が締め付けられて、口を開くことが出来ない。
今の記憶は、海ガメから伝わってきたの? なら、海ガメの呪いは――
そこまで考えて、矛盾に気づく。グリフォンが力を失ったのなら、今のグリフォンは強くないはずで。けれど魔物に襲われた時グリフォンは戦っていて。
「何て顔してんですかー。目的を忘れたんですか?」
何のことかよく思い出せなくて、一瞬ぽかんとしてしまった。
「ここ、敵陣ですよー。いや、あなたにとっては寝床でしたか」
「そうだ! 私、城に帰ってきた?」
「いきなり起きあがっては危ないよ、アリス」
ぐらりと体が傾いて、足が滑る。足元を見ると、薔薇の庭があるのが見えた。それも、かなり下にある。
「えっ?」
「すみませーん! ウサギの穴の先が、城の屋根だったみたいです」
ぶらん、と空中をかいた足の感覚に脊筋がひやりとした。ウサギの穴に入って、今まで地面の上にでたことが奇跡だったのではないのかと思うくらい、場所が悪すぎる。チェシャ猫が体を支えてくれていなければ、屋根から落下していた。ウサギの穴に落ちるのとは違って、命がない落下だ。
「白ウサギ、君のおっちょこちょいに僕らを巻き込むのはやめてもらえるかい?」
さすがのチェシャ猫も冷や汗をかいていて、白ウサギがしゅんと項垂れる。
「これ、どうやって降りるの?」
「飛ぶしかないですねー」
「僕は世界の為に消える運命ではなく、城の屋根から飛んで最期を迎えるのですか? 以前から鳥のようになれたらと思っていましたが、僕はまだウサギです!」
「白ウサギがこわれた!」
「そうみたいだね」
城の壁にへばりついて震える白ウサギを、ビルはあろうことかつつく。白ウサギは声にならない声をあげて、さらに体を震わせる。
「仕方ないですねぇ。一人ずつ運ぶので、僕につかまってください。腕力は呪いで奪われているので、命の保証はしませんので、そのつもりでつかまってくださいね」
「へ? 海ガメ?」
海ガメが白ウサギのお腹に腕をまわしたかと思うと、海ガメの背中から人を三人くらいは包んでしまえそうな、大きな羽が生える。茶色い羽は自由になったというように、数回空気をまわすように羽ばたくと、勢いをつけて城の屋根から飛び降りる。
「わああああああ!」
白ウサギの叫び声が遠のいて、あっと言う間に城の屋上へと着地する。
海ガメって、飛ぶ生き物なのかな?
「はい、次はアリスですよー」
「ちょっと待って、事態に追いつけないというか、心の準備ができていないというか」
「僕が待つわけないじゃないですかぁ」
チェシャ猫が私の体から離れると、海ガメがまるで幼子を抱きかかえる準備のように、私の脇を持つ。慌てて海ガメの首に手を回すと、悪意があるとしか言えない速度で降下して、白ウサギと同じく悲鳴が出た。
全員を無事におろした海ガメは、笑みを作りながらも珍しくばつの悪い顔をしていた。
「海ガメ、あなたは一体」
「もーいいじゃん」
混乱する場に響いたのは、聞いたことのある不機嫌な声。二人の姿に、私は驚きと安堵が混ざった不思議な気持ちになる。
「グリフォン! メアリー!」
「アリス! 今日も可愛い!」
「きゃ!」
飛び付かれて、床に座っていた私は後ろに押し倒される。そのまま床に頭をぶつけるかと思ったけど、さりげなくチェシャ猫が支えてくれた。
「もぉ、心配していたんだからっ!」
「ごめんね。でもメアリー、また会えて嬉しい。私も皆が無事か心配だったの」
今の記憶は、海ガメから伝わってきたの? なら、海ガメの呪いは――
そこまで考えて、矛盾に気づく。グリフォンが力を失ったのなら、今のグリフォンは強くないはずで。けれど魔物に襲われた時グリフォンは戦っていて。
「何て顔してんですかー。目的を忘れたんですか?」
何のことかよく思い出せなくて、一瞬ぽかんとしてしまった。
「ここ、敵陣ですよー。いや、あなたにとっては寝床でしたか」
「そうだ! 私、城に帰ってきた?」
「いきなり起きあがっては危ないよ、アリス」
ぐらりと体が傾いて、足が滑る。足元を見ると、薔薇の庭があるのが見えた。それも、かなり下にある。
「えっ?」
「すみませーん! ウサギの穴の先が、城の屋根だったみたいです」
ぶらん、と空中をかいた足の感覚に脊筋がひやりとした。ウサギの穴に入って、今まで地面の上にでたことが奇跡だったのではないのかと思うくらい、場所が悪すぎる。チェシャ猫が体を支えてくれていなければ、屋根から落下していた。ウサギの穴に落ちるのとは違って、命がない落下だ。
「白ウサギ、君のおっちょこちょいに僕らを巻き込むのはやめてもらえるかい?」
さすがのチェシャ猫も冷や汗をかいていて、白ウサギがしゅんと項垂れる。
「これ、どうやって降りるの?」
「飛ぶしかないですねー」
「僕は世界の為に消える運命ではなく、城の屋根から飛んで最期を迎えるのですか? 以前から鳥のようになれたらと思っていましたが、僕はまだウサギです!」
「白ウサギがこわれた!」
「そうみたいだね」
城の壁にへばりついて震える白ウサギを、ビルはあろうことかつつく。白ウサギは声にならない声をあげて、さらに体を震わせる。
「仕方ないですねぇ。一人ずつ運ぶので、僕につかまってください。腕力は呪いで奪われているので、命の保証はしませんので、そのつもりでつかまってくださいね」
「へ? 海ガメ?」
海ガメが白ウサギのお腹に腕をまわしたかと思うと、海ガメの背中から人を三人くらいは包んでしまえそうな、大きな羽が生える。茶色い羽は自由になったというように、数回空気をまわすように羽ばたくと、勢いをつけて城の屋根から飛び降りる。
「わああああああ!」
白ウサギの叫び声が遠のいて、あっと言う間に城の屋上へと着地する。
海ガメって、飛ぶ生き物なのかな?
「はい、次はアリスですよー」
「ちょっと待って、事態に追いつけないというか、心の準備ができていないというか」
「僕が待つわけないじゃないですかぁ」
チェシャ猫が私の体から離れると、海ガメがまるで幼子を抱きかかえる準備のように、私の脇を持つ。慌てて海ガメの首に手を回すと、悪意があるとしか言えない速度で降下して、白ウサギと同じく悲鳴が出た。
全員を無事におろした海ガメは、笑みを作りながらも珍しくばつの悪い顔をしていた。
「海ガメ、あなたは一体」
「もーいいじゃん」
混乱する場に響いたのは、聞いたことのある不機嫌な声。二人の姿に、私は驚きと安堵が混ざった不思議な気持ちになる。
「グリフォン! メアリー!」
「アリス! 今日も可愛い!」
「きゃ!」
飛び付かれて、床に座っていた私は後ろに押し倒される。そのまま床に頭をぶつけるかと思ったけど、さりげなくチェシャ猫が支えてくれた。
「もぉ、心配していたんだからっ!」
「ごめんね。でもメアリー、また会えて嬉しい。私も皆が無事か心配だったの」