桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~
 私の一つ上であるジェームズお兄様は不在のようだけれど、ロリーナお姉様とは一つ席をあけて座った。
 ハリーお兄様が生き生きと紅茶を注ぎ始める。私はローダがクッキーを食べはじめてしまわないか心配で、幼いローダを見張る。ローダはクッキーに釘付けで、私の視線に気づくことはない。
「また庭で本を読んでいたのか? 先生の本、そんなに面白いなら俺にも見せてくれよ」
 甘いローズの香りが漂ってきて、今日の紅茶がローズヒップティーだと知る。ローズヒップティーは私が一番好きな紅茶だ。
 ハリーお兄様が指した本の表紙を何気なく撫でる。太陽の栄光を受け、まだほんのりと温かみが残っていた。
「今は読み途中なの。読み終わったら貸すね」
「ハリーお兄様、ジェームズ達は?」
 お姉様が、ここにはいない兄弟姉妹の名前をあげていく。普段ならお茶会に顔を出すはずの顔ぶれがなく、私も不思議に思っていたところだった。九人兄弟姉妹が揃わないと、どことなく落ち着かない。イーディスも同じなのか、紅茶を飲みながら耳を傾けていた。
 クッキーを口に含むと、こんがりと焼けた甘さが口の中に広まった。隣のローダも頬いっぱいにし、美味しそうに頬張っている。
「お隣にいるよ。ほら、一ヶ月前、ご夫婦が亡くなっただろう? それから一ヶ月間ずっと、一人息子はおろか、仕えていた使用人の子供達が一歩も外を出歩いてないって話だ」
「それとジェームズ達に何か関係があるんですの?」
「塞ぎこんでいる彼等を元気付けようって意気込んで出てったのさ。ま、ご夫婦の資産は旦那の叔父が継いで、一人息子の面倒も見ることになったらしいし、後継者としての勉強をしているだけだと思うがな。追い返されてすぐに帰ってくるさ」
「私も行ってきていい?」
 その場にいた全員が、驚いた表情で私を見る。私も自分の口から出た言葉に驚いた。なぜだか、探しに行かなければいけない気がした。
 ジェームズお兄様達を?
 ううん、違う。なら、誰を? 何を探すんだろう?
「あ、えと。せっかく美味しいクッキーと紅茶だから、ジェームズお兄様達も呼んでこないと、と思って」
 疑問が頭の中に浮かびながらも、すらすらと言葉が出てくる。
 そうだ、目の前の美味しいクッキーを、私は皆で食べたいからいくんだ。
 あっさりと答えを見つけて胸の突っかかりが晴れていく。何も不思議なことなんてなかったのだ。
「いいけれど、お母様が貴女に渡したいものがあると仰っていたわ」
「それって『何でもない日のお祝い』なのではないですの? 今回は私の番かと思っていましたのに、残念ですわ」
 ロリーナお姉様の言葉に、イーディスが残念そうに肩を竦める。黄色いドレスがふわりとイーディスの髪に触れた。癖っ毛で猫っ毛な髪を短くしているイーディス。癖っ毛が気になるらしく、本人は苦言を漏らすけど、私やお姉様からしたら自然なウェーブは羨ましかった。
 何でもない日のお祝いはお父様とお母様がお仕事から帰られた時に、兄弟姉妹を順にプレゼントやお祝いをすることだった。
 お仕事で忙しいお父様とお母様は、私達の誕生日の当日にお祝いすることが出来ない。そのことを気に病んで始めたのがきっかけで、いつしか『何でもない日のお祝い』と呼ぶようになっていた。
 お祝いは、アンハッピーバースデーを一言目にして始まっていく。誕生日当日もお祝いはするけれど、家族全員が揃ってからが本番だった。
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