桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~
どうやら、先日十四歳を迎えた私の番のようだ。しかしそこで、当日の誕生日パーティーの記憶がないことに気付く。けれど、シャンデリアと楽しげな音楽が僅かに甦る。プレゼントはもらったような気がするし、この中の誰からも貰っていない気がする。
「ねぇ、お姉様はお母様に何を貰うつもりですの?」
「んー、どうしようかな」
「ロリーナがそのカチューシャをくれたのだから、それに似合う洋服をねだるのはどうだ?」
「あら、今着ているドレスだって、ハリーお兄様と相談して決めたじゃないの」
「なん着持っていても構わんだろう、それにレディが可愛く着飾らなくてどうする。服、装飾品、靴に至るまで、全てのコーディネートを完璧に着こなしてこそ真のレディではないか」
「出ましたわ、ハリーお兄様の理想のレディ論!」
「と、とりあえず、お隣も広い館だけど、そんなに遠いわけじゃないし、すぐに見つけて帰ってくるよ。クッキー、取っておいてね!」
ハリーお兄様の語りが始まるのを察知した私は、慌ただしく部屋の扉に手をかける。
「早く帰ってくるんだぞ。万が一があっては心配だからな。長男としてお父様に言い訳が立たない」
ローダも手にクッキーを持っていたものの、食べるのをやめてこちらを見上げていた。私は不安げなローダの頭を撫でてあげる。
私もお姉様のように、妹や弟の面倒を見られるようにならなきゃ。最も、イーディスのようにしっかりしていると、逆にこちらの面倒を見てもらっている気がするのだけれど。
「わかっているよ! いってきます!」
心配そうなロリーナお姉様の瞳が気になったけれど、ひとまず玄関に向かって足早に駆ける。
玄関を出て階段を降りると、中央にある噴水を横目に、ジェームズお兄様の姿を探す。弟のヴィオレット、妹のフレディックがジェームズお兄様のあとについているはずだから、固まって行動しているはずだ。ジェームズお兄様は私の二つ上で、もう高等学校に進んでいるけれど、ヴィオレットとフレディックはまだ初等部に入ったばかりだ。
あえて敷地の門外には出ず、お隣の方へ歩く。ジェームズお兄様のことだから、真っ正面からは行かず、抜け道を探すと思うんだよね。
敷地内には薔薇が植えられていて、鮮やかな赤が館を彩るようだった。ほんのりと薔薇の香りが鼻を霞めると、懐かしい思い出をくすぐられた気がした。
お隣との柵が見え、ジェームズお兄様達の姿を探す。周りを見渡しても見慣れた姿はなかったけれど、視界に動くものがあり、足を進めた。
「そこにいるのは誰?」
呼び掛けても、草を踏む音が聞こえるだけだった。身を屈めているのか、薔薇に隠れて姿が見えない。
「ヴィオレット? それともフレディック?」
幼い二人のどちらかを予想しながら音のする方に回り込むと、驚くことにウサギが二羽、身を寄せあいながら草を食べていた。二羽は色が違い、片方は白でもう片方は黒い。
二羽は私の存在に気付くと、小さな瞳をこちらに向ける。
白いウサギは赤く、黒いウサギは青く、そのどちらもが私に寂しそうな色を滲ませた。私が一歩を踏み出すと、一気に駆け出してしまう。
瞬間、身体が跳ねるように動いた。
「待って!」
――待って、お願い、行かないで。
頭に浮かぶ、切実な言葉。何をそんな切羽詰まっているのか、分からない。けれど、追いかけなければならない気がした。
二羽はお隣の敷地を隔てる柵に向かう。柵の捻れ気付いた時には遅く、二羽は柵に空いた隙間を通って行ってしまった。
「ねぇ、お姉様はお母様に何を貰うつもりですの?」
「んー、どうしようかな」
「ロリーナがそのカチューシャをくれたのだから、それに似合う洋服をねだるのはどうだ?」
「あら、今着ているドレスだって、ハリーお兄様と相談して決めたじゃないの」
「なん着持っていても構わんだろう、それにレディが可愛く着飾らなくてどうする。服、装飾品、靴に至るまで、全てのコーディネートを完璧に着こなしてこそ真のレディではないか」
「出ましたわ、ハリーお兄様の理想のレディ論!」
「と、とりあえず、お隣も広い館だけど、そんなに遠いわけじゃないし、すぐに見つけて帰ってくるよ。クッキー、取っておいてね!」
ハリーお兄様の語りが始まるのを察知した私は、慌ただしく部屋の扉に手をかける。
「早く帰ってくるんだぞ。万が一があっては心配だからな。長男としてお父様に言い訳が立たない」
ローダも手にクッキーを持っていたものの、食べるのをやめてこちらを見上げていた。私は不安げなローダの頭を撫でてあげる。
私もお姉様のように、妹や弟の面倒を見られるようにならなきゃ。最も、イーディスのようにしっかりしていると、逆にこちらの面倒を見てもらっている気がするのだけれど。
「わかっているよ! いってきます!」
心配そうなロリーナお姉様の瞳が気になったけれど、ひとまず玄関に向かって足早に駆ける。
玄関を出て階段を降りると、中央にある噴水を横目に、ジェームズお兄様の姿を探す。弟のヴィオレット、妹のフレディックがジェームズお兄様のあとについているはずだから、固まって行動しているはずだ。ジェームズお兄様は私の二つ上で、もう高等学校に進んでいるけれど、ヴィオレットとフレディックはまだ初等部に入ったばかりだ。
あえて敷地の門外には出ず、お隣の方へ歩く。ジェームズお兄様のことだから、真っ正面からは行かず、抜け道を探すと思うんだよね。
敷地内には薔薇が植えられていて、鮮やかな赤が館を彩るようだった。ほんのりと薔薇の香りが鼻を霞めると、懐かしい思い出をくすぐられた気がした。
お隣との柵が見え、ジェームズお兄様達の姿を探す。周りを見渡しても見慣れた姿はなかったけれど、視界に動くものがあり、足を進めた。
「そこにいるのは誰?」
呼び掛けても、草を踏む音が聞こえるだけだった。身を屈めているのか、薔薇に隠れて姿が見えない。
「ヴィオレット? それともフレディック?」
幼い二人のどちらかを予想しながら音のする方に回り込むと、驚くことにウサギが二羽、身を寄せあいながら草を食べていた。二羽は色が違い、片方は白でもう片方は黒い。
二羽は私の存在に気付くと、小さな瞳をこちらに向ける。
白いウサギは赤く、黒いウサギは青く、そのどちらもが私に寂しそうな色を滲ませた。私が一歩を踏み出すと、一気に駆け出してしまう。
瞬間、身体が跳ねるように動いた。
「待って!」
――待って、お願い、行かないで。
頭に浮かぶ、切実な言葉。何をそんな切羽詰まっているのか、分からない。けれど、追いかけなければならない気がした。
二羽はお隣の敷地を隔てる柵に向かう。柵の捻れ気付いた時には遅く、二羽は柵に空いた隙間を通って行ってしまった。