桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~
私がぽかんとしていると、黒髪の少年はポケットから何かを取り出す。鎖のぶつかり合う音がしたと思うと、見覚えのある金色の懐中時計が彼の手にあった。
急いでポケットの中を探る。金色の時計は、きちんとポケットの中にあった。
『――おそらく白ウサギと黒ウサギは、これと同じ時計を持っているわ』
女王様が言っていた言葉が頭を過る。
「もしかして、あなたが」
「……」
言い終わる前に、黒髪の少年は先程と違う方向に走り出した。向かった先にチェシャ猫はいない。黒髪の少年の被っていた、服装とは不似合いなシルクハットがフワリと飛ぶ。シルクハットの下から現れたのは、黒いウサギ耳。
「黒ウサギ!」
ドクンと心臓が波打つ。追いかけなきゃ!
「待って! 黒ウサギ!」
再び全力で黒ウサギを追いかける。走っている間、何度も木の根や小さな石に転びそうになった。急に黒ウサギが止まり、あと少しで捕まえられる、そう思った瞬間、黒ウサギが方向を変えた。私は急な方向転換についていけず、スピードを落とす。走りすぎて頭がクラクラして、足がふらついておぼつかない。
「バカ! そっちは崖だ!」
黒ウサギの声を聞きながら、前に進むと、柔らかい土を踏んだ。ズルリと足が滑る。そしてそのまま、足が地面から離れていく。背筋に悪寒が走る。
「え?」
「アリス! くそっ!」
落ちていく感覚。虚ろな意識の中、黒ウサギがこちらに手を伸ばすのが見えた。伸ばした手は、一度は何も掴まなくて。けれど、落ちているはずの私の手をとり、引き寄せたのは、紛れもない。
「黒ウサギ……」
意識が遠退く中、最後にギュッと抱き締められる感覚があった。
あぁ、チェシャ猫が私を呼んでいる。
落ちていく中、黒ウサギの腕の強さと、チェシャ猫が私の名前を呼ぶのを聞きながら、私は意識を手放した。
『――待って! 黒ウサギ!』
再び甦る映像。今度は以前よりもはっきりとしている。
アリスさんが追いかけているのはおそらく十三代目の黒ウサギ。
『アリスは白ウサギだけ追いかければいいんだ!』
どうして? どうして十三代目の黒ウサギはそんなこと言うの?
『行かないで! 私は貴方の事が――』
アリスさんが悲しそうな顔をする。伝えたいのに伝えられない、伝わらない。
その悲しさが心に響いて、私まで悲しくなる。
アリスさんは、黒ウサギに何を伝えたかったの?
映像は途切れ、想いだけが浮遊する。
行かないで
行かないで、私は、貴方の事が――
「ん……此処は……?」
深い岩の壁に挟まれた、青い空。壁を下がるごとに色合いは黒に近づき、此処が崖の底だということに気づく。薄暗さと底の空気の冷たさに肌をさすった。
私、何で崖の下なんかに……
私、どうなったんだっけ?
全力で走っていたら急に視界がボヤけて、それで……
「……っ! 黒ウサギ!」
薄暗くて視界の悪い中、黒ウサギらしき体が倒れているのが見えた。
そうだ。私は目の前が崖だということに気付かずに、足を滑らせてそのまま転落してしまったんだ! そしてその時、黒ウサギが私の腕を掴んで抱き寄せてくれた。
「黒ウサギ! っきゃ!」
黒ウサギに近寄ろうと立ち上がった瞬間、足元がぐらついて再び体が倒れる。足元がふわふわすると思ったら。地面に足が食べられているように、飲み込まれている。ただ足を浮かせば容易に抜くことが出来て、単に地面が柔らかいのだと分かった。
「う」
「黒ウサギ! 大丈夫!?」
急いでポケットの中を探る。金色の時計は、きちんとポケットの中にあった。
『――おそらく白ウサギと黒ウサギは、これと同じ時計を持っているわ』
女王様が言っていた言葉が頭を過る。
「もしかして、あなたが」
「……」
言い終わる前に、黒髪の少年は先程と違う方向に走り出した。向かった先にチェシャ猫はいない。黒髪の少年の被っていた、服装とは不似合いなシルクハットがフワリと飛ぶ。シルクハットの下から現れたのは、黒いウサギ耳。
「黒ウサギ!」
ドクンと心臓が波打つ。追いかけなきゃ!
「待って! 黒ウサギ!」
再び全力で黒ウサギを追いかける。走っている間、何度も木の根や小さな石に転びそうになった。急に黒ウサギが止まり、あと少しで捕まえられる、そう思った瞬間、黒ウサギが方向を変えた。私は急な方向転換についていけず、スピードを落とす。走りすぎて頭がクラクラして、足がふらついておぼつかない。
「バカ! そっちは崖だ!」
黒ウサギの声を聞きながら、前に進むと、柔らかい土を踏んだ。ズルリと足が滑る。そしてそのまま、足が地面から離れていく。背筋に悪寒が走る。
「え?」
「アリス! くそっ!」
落ちていく感覚。虚ろな意識の中、黒ウサギがこちらに手を伸ばすのが見えた。伸ばした手は、一度は何も掴まなくて。けれど、落ちているはずの私の手をとり、引き寄せたのは、紛れもない。
「黒ウサギ……」
意識が遠退く中、最後にギュッと抱き締められる感覚があった。
あぁ、チェシャ猫が私を呼んでいる。
落ちていく中、黒ウサギの腕の強さと、チェシャ猫が私の名前を呼ぶのを聞きながら、私は意識を手放した。
『――待って! 黒ウサギ!』
再び甦る映像。今度は以前よりもはっきりとしている。
アリスさんが追いかけているのはおそらく十三代目の黒ウサギ。
『アリスは白ウサギだけ追いかければいいんだ!』
どうして? どうして十三代目の黒ウサギはそんなこと言うの?
『行かないで! 私は貴方の事が――』
アリスさんが悲しそうな顔をする。伝えたいのに伝えられない、伝わらない。
その悲しさが心に響いて、私まで悲しくなる。
アリスさんは、黒ウサギに何を伝えたかったの?
映像は途切れ、想いだけが浮遊する。
行かないで
行かないで、私は、貴方の事が――
「ん……此処は……?」
深い岩の壁に挟まれた、青い空。壁を下がるごとに色合いは黒に近づき、此処が崖の底だということに気づく。薄暗さと底の空気の冷たさに肌をさすった。
私、何で崖の下なんかに……
私、どうなったんだっけ?
全力で走っていたら急に視界がボヤけて、それで……
「……っ! 黒ウサギ!」
薄暗くて視界の悪い中、黒ウサギらしき体が倒れているのが見えた。
そうだ。私は目の前が崖だということに気付かずに、足を滑らせてそのまま転落してしまったんだ! そしてその時、黒ウサギが私の腕を掴んで抱き寄せてくれた。
「黒ウサギ! っきゃ!」
黒ウサギに近寄ろうと立ち上がった瞬間、足元がぐらついて再び体が倒れる。足元がふわふわすると思ったら。地面に足が食べられているように、飲み込まれている。ただ足を浮かせば容易に抜くことが出来て、単に地面が柔らかいのだと分かった。
「う」
「黒ウサギ! 大丈夫!?」