桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~
「当たり前でしょ。城から出ることを許さないって言ったでしょ!」
『チェシャ猫がくれた想いを返したいように、女王様がくれた想いも私は返していきたい。だから、私はチェシャ猫をつれて帰ってくる。そうしたら、また、私は傍にいていい?』
鏡を割る前に、私は女王様に聞いた。
『城から出ることなんて許さないわよ』と言ってくれたあの言葉は、変わっていなかったんだ。
「アリス。私は罪を償うつもりだわ。暗黒の魔女は私の心が分離したもの。国を恐怖に陥れた罪、自分勝手にした罪、千四百年の間、沢山の命を消した罪。沢山の罪をこれから償う。国の民に真実を黙っているつもりはない。だから今までの生活とは、きっと同じにはならないわ」
「平気だよ。アーサーがエレノアの憎しみを受け止めると言っていたように、私も憎しみと向き合っていく。覚悟だってちゃんとして帰ってきたよ。それに、暗黒の魔女は消えたわけじゃない。そうでしょ?」
「ふん、目敏い小娘になったものだ。受け止めてみよ、この憎悪、この怒り。お前に出来るものならな」
 アイスブルーの瞳が、妖しく血の色に変わる。一瞬だけ背筋を凍らせる空気を纏ったけれど、私の瞳を見て諦めたのか、女王様の気配が戻ってくる。
 向き合っていく。何度だって、受け止める。皆もきっと、同じ答えを出す。だから、大丈夫。
「あ、女王様、王様が仲直りしたいみたいなんだけど」
「アンタがいるから一緒には住めないって、あの傲慢な男に言ってやってちょうだい! あの男、この城にやってきたと思ったら、私物をどんどん置いているのよ! しかも、この私の部屋にまで!」
 起き上がってこちらを睨み付けてくる女王様が、バシリとベッドを叩く。よく見たら女王様のベッドのサイズが大きくなっているばかりか、装飾が派手なものに切り替わっている。もしかしたら王様が勝手にベッドを変えたのかもしれない。
 女王様が機嫌を損ねた理由が分かったけれど、王様とは仲直りしたはず。
「でも、女王様は王様と暮らしたいって思っていたよね?」
 ビシリ、と空気が固まり、女王様の目付きが鋭くなる。恥ずかしいのか、ヒステリーを起こす前兆なのか、顔がみるみる赤くなっていって。
「一緒に住みたいだなんて言ってないわ! 勘違いも甚だしいのよ! 妄想もほどほどにしてちょうだい! 首をはねるわよ!」
「ご、ごめんなさーい!」
 久しぶりのヒステリックな声と威圧に、耳が耐えかねて思わず退散してしまう。部屋を飛び出してきた私を、チェシャ猫が受け止めると、困ったように笑う。
「夫婦喧嘩の仲裁は、君でも難しいみたいだね」
「うん、ダメだった」
 ヒステリックな叫び声はまだ扉の中から聞こえていて、王様は怯えながら中を伺うも、女王様に睨まれたのか身を震え上がらせ扉を盾に隠れる。
「アリス! 女王が先ほどより怒っているぞ!」
「ごめんなさい王様。今はまだご機嫌斜めみたい」
 王様はショックを受けたのか、白目を剥いてしまう。そんな王様を見て、時計屋さんはため息を吐いた。
「女王陛下は照れているのですよ、お兄様。恥じる女性には慎重に、少しずつ距離を詰めてはいかがですか。それにしても、こんな恥じるほど女王陛下に愛されているなんて、お兄様を尊敬します!」
 通路の向こうから、キラキラとしたオーラが歩いてきたと思うと、瞳がバチリと合う。
「ハンプティ!」
「アリス、お帰りなさい!」
「お、ダムの玩具が帰ってきた」
「ふふ、ディーの玩具が帰ってきたね」
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