桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~
 いつ頃見た夢だろう。夢の内容ってなかなか思い出せないんだよね。
「よし!」
 思い切って星に手を伸ばし触れる。ふわりとした感覚がしたと思うと、目の前に霧が広がった。少しの間見つめていると、目の前に広がっていた霧がだんだんと晴れてくる。
『――こ、――ねぇ――遊ぼうよ――』
 霧の向こうから幼い少女の声が聞こえる。
 見慣れた薔薇庭園を駆ける少女。まだ長くないピンク色の髪を、二つ縛りにしたその子は、いつも鏡で見るよりも幼いけれど、まぎれもなく私だ。
『今日は何して遊ぶ? どこに行こっか?』
 幼い私は誰かの手をひいて薔薇庭園を走っている。
『大丈夫だよ。女王様には見つからないから!』
 私、こんな夢見ていたんだ。 
 それよりも、幼い私が手をひいている子、どこかで見たことが、というか会ったことがあるような気がするんだけど……
 大人用のシルクハットを深く被った幼い少年。身長は夢の中の私と同じくらいの背丈をしている。背中をこちらに向けているから顔が見えない。
 誰だろう。
『だから安心して! 一緒に行こ!』
 走っていく彼らを追いかけてみる。私の見た夢だ。見たことがあるのは当然かもしれない。もしかしたら夢の中だけの登場人物かもしれない。だけど、懐かしい感じがする。
「待って」
『あっちにね、抜け道があるんだよ』
 二人は手を繋ぎながら並んで走っていく。
『ここを通り抜けると花畑があるの! 今日はそこで遊ぼ!』
 幼い私は、手を繋いでいるその子の方を向いて楽しそうに笑いかけた。するとその子もつられて幼い私に笑いかける。
 シルクハットを被っているから顔ははっきりと見えなかったけど、あの笑った横顔、誰かに似ている。もう少し前に出てみれば見えるかもしれない。
 足を踏み出し瞬間、今まで見ていた風景や彼らが急に消える。
「え、あれ?」
「おかえり。アリス」
「夢が、終わった?」
 気付くと夢を覗く前にいた風景に戻っていた。目の前にはふわふわと星が浮いている。
「どうだった? 自分の夢」 
 夢魔の声がする方を向くと、椅子に座り本を読む夢魔がいた。さっきまで夢の中にいたからだろうか。なんだか足元がおぼつかない。
「なんだか懐かしい夢だった」
 あの子は一体誰だったんだろう。
 そういえば、ずっと忘れてしまっていたけれど、昔好きだった男の子がいた。
『アリスはここに居ていいんだよ』
 お父さんやお母さんがいる子を羨ましがっていた頃。城にいていいのか悩んでいた頃。
 男の子が私に言った言葉。その言葉で、此処にいていいんだと思えた。それがとても嬉しかった。あの頃から沢山笑えるようになった。遠い昔の、忘れてしまった大好きな男の子。その男の子と夢の男の子は少しだけ似ている気がする。あの男の子がいたから私は寂しくなんてなくなった。
「アリス、何考えて」
 自分でも無意識に、体が動く。抱き締めてみると、少ししか違わない身長。小さな体。気付くと私は夢魔を抱き締めていた。
「な、何を」
 腕の中にいる夢魔をぎゅっと抱き締める。
「寂しかったよね」
 思い出した。幼い頃、城の探検でいたずらに見てしまった、城の牢獄に閉じ込められていた罪人のような。廊の中で助けの光を求めるあの瞳。気のせいかもしれないけれど、夢魔と初めて目が合った時、助けを求めていたような表情をしていた。
 幼い頃、寂しかった。あんな瞳を見て、思い出すだけで胸が苦しくなるけれど、その事とは別に感情が働いた。
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