桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~
そう言って夢魔はもう一度仕立て屋に蹴りを入れる。
「おまっ! 二度も同じ場所を!」
蹴られた場所を押さえゴロゴロと床を転げ回る仕立て屋。
「ぷ」
その光景があまりにも可笑しくて笑っちゃいそうだ。
「全く、みっともない奴」
夢魔が転げ回る仕立て屋を見下ろしてため息をついた。この光景を見ている限り、仕立て屋より夢魔の方が大人な気がする。
「夢魔とは仲良くなれたかい? ま、夢魔があの様子じゃ、仲良くなったみたいだね」
二人で再び夢魔を見つめる
「な、何さ。二人して」
視線に気付いた夢魔は頬を少し赤く染めた。顔が赤い自覚があるのか、小さなシルクハットで顔を隠す。
本当、可愛いな。こんな弟がいたら良かったのに。
少しの間、夢魔を見つめると、チェシャ猫は口を開いた。
「ところで、何があったの?」
「え?」
その一言で、夢魔も私も表情が変わる。
「僕も聞こうと思っていた。あの星の中で何を見たの?」
先程の光景が蘇る。暗雲の立ち込める中、鎌を持った金髪の少女。そして黒に身を包んだ暗黒の魔女と呼ばれたあの人。あの、恐怖。
最初に見た自分の夢は、ふわふわしていて霧がかかっている不確定な世界。だけど黒い星の夢は現実味のある、夢だとは思えないようなはっきりとした世界だった。ただの夢、だ。そう信じたい。でも。
「怖い、夢を見たの」
「どんな夢だったの?」
声の方に視線を移すと、夢魔が深刻そうにこちらを見ている。
「暗黒の、魔女……」
考えるよりも先に口が動いた。チェシャ猫も夢魔も仕立て屋も、驚きの表情に変わる。
「暗雲の中、金髪の、鎌を持った少女が暗黒の魔女と戦っていたの」
夢魔を見ると、緊張した雰囲気の夢魔がいた。
「それ、本当?」
夢魔は不安そうな、どこか信じられないように私を見つめている。嫌な予感が、当たってほしくない時に当たる。
「あの黒い星。凄く嫌な感じがした。それにあんな黒い星は見たことなかった」
「夢じゃ、ないの?」
「多分」
嫌な予感の的中に、体が強ばる。
「もしかしたらあの星。暗黒の魔女が作った物かもしれない」
「どういうこと? 暗黒の魔女が、作った?」
「あくまで推測だけどね。アリスの存在に気付いた暗黒の魔女が、仕組んだ罠だよ」
『オマエニ』
「――っ」
魔女の言葉が耳元で囁かれた気がして、思わず肩を抱く。
「大丈夫かい?」
「おい、顔色悪いぜ?」
「寝かせてあげた方がいいんじゃない?」
仕立て屋の声も、夢魔の声も、今は何も聞こえない。あの時の声が、頭に響いている。魔女の笑った顔が、目に焼き付いていて離れない。鎌が振り下ろされていたあの瞬間。
魔女は笑いながら言ったのだ。
『お前に世界の崩壊は止められない』と。
「アリス。落ち着いて」
私を抱く、チェシャ猫の力が強くなる。
そうだ。今はとにかく落ち着いて考えなきゃいけない。あの黒い星の中にあった映像が夢ではないのなら、一体何なのか。暗黒の魔女が言った事は本当なのか。もしも本当なのなら。
「暗黒の魔女が何をしたかったのかは僕には分からないけど」
夢魔の瞳が私を捉える。
「もしも次にまた怖い夢を見ることがあったら、僕が助けに行くよ」
「そうだね。僕は夢の中に入れないから、その時はアリスを頼んだよ」
チェシャ猫が微笑みながらそう言った。
「夢魔、ありがとう」
私がお礼を言うと、夢魔は顔が赤くなったのを隠すように今度は顔を反らした。私よりも幼いはずなのに、ずっとしっかりしている。
「んじゃ、そろっと帰るぜ」
今まで黙っていた仕立て屋が動き出す。
「おまっ! 二度も同じ場所を!」
蹴られた場所を押さえゴロゴロと床を転げ回る仕立て屋。
「ぷ」
その光景があまりにも可笑しくて笑っちゃいそうだ。
「全く、みっともない奴」
夢魔が転げ回る仕立て屋を見下ろしてため息をついた。この光景を見ている限り、仕立て屋より夢魔の方が大人な気がする。
「夢魔とは仲良くなれたかい? ま、夢魔があの様子じゃ、仲良くなったみたいだね」
二人で再び夢魔を見つめる
「な、何さ。二人して」
視線に気付いた夢魔は頬を少し赤く染めた。顔が赤い自覚があるのか、小さなシルクハットで顔を隠す。
本当、可愛いな。こんな弟がいたら良かったのに。
少しの間、夢魔を見つめると、チェシャ猫は口を開いた。
「ところで、何があったの?」
「え?」
その一言で、夢魔も私も表情が変わる。
「僕も聞こうと思っていた。あの星の中で何を見たの?」
先程の光景が蘇る。暗雲の立ち込める中、鎌を持った金髪の少女。そして黒に身を包んだ暗黒の魔女と呼ばれたあの人。あの、恐怖。
最初に見た自分の夢は、ふわふわしていて霧がかかっている不確定な世界。だけど黒い星の夢は現実味のある、夢だとは思えないようなはっきりとした世界だった。ただの夢、だ。そう信じたい。でも。
「怖い、夢を見たの」
「どんな夢だったの?」
声の方に視線を移すと、夢魔が深刻そうにこちらを見ている。
「暗黒の、魔女……」
考えるよりも先に口が動いた。チェシャ猫も夢魔も仕立て屋も、驚きの表情に変わる。
「暗雲の中、金髪の、鎌を持った少女が暗黒の魔女と戦っていたの」
夢魔を見ると、緊張した雰囲気の夢魔がいた。
「それ、本当?」
夢魔は不安そうな、どこか信じられないように私を見つめている。嫌な予感が、当たってほしくない時に当たる。
「あの黒い星。凄く嫌な感じがした。それにあんな黒い星は見たことなかった」
「夢じゃ、ないの?」
「多分」
嫌な予感の的中に、体が強ばる。
「もしかしたらあの星。暗黒の魔女が作った物かもしれない」
「どういうこと? 暗黒の魔女が、作った?」
「あくまで推測だけどね。アリスの存在に気付いた暗黒の魔女が、仕組んだ罠だよ」
『オマエニ』
「――っ」
魔女の言葉が耳元で囁かれた気がして、思わず肩を抱く。
「大丈夫かい?」
「おい、顔色悪いぜ?」
「寝かせてあげた方がいいんじゃない?」
仕立て屋の声も、夢魔の声も、今は何も聞こえない。あの時の声が、頭に響いている。魔女の笑った顔が、目に焼き付いていて離れない。鎌が振り下ろされていたあの瞬間。
魔女は笑いながら言ったのだ。
『お前に世界の崩壊は止められない』と。
「アリス。落ち着いて」
私を抱く、チェシャ猫の力が強くなる。
そうだ。今はとにかく落ち着いて考えなきゃいけない。あの黒い星の中にあった映像が夢ではないのなら、一体何なのか。暗黒の魔女が言った事は本当なのか。もしも本当なのなら。
「暗黒の魔女が何をしたかったのかは僕には分からないけど」
夢魔の瞳が私を捉える。
「もしも次にまた怖い夢を見ることがあったら、僕が助けに行くよ」
「そうだね。僕は夢の中に入れないから、その時はアリスを頼んだよ」
チェシャ猫が微笑みながらそう言った。
「夢魔、ありがとう」
私がお礼を言うと、夢魔は顔が赤くなったのを隠すように今度は顔を反らした。私よりも幼いはずなのに、ずっとしっかりしている。
「んじゃ、そろっと帰るぜ」
今まで黙っていた仕立て屋が動き出す。