桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~
白ウサギの赤い瞳が、私の心を深く覗くかのように、私を見つめている。慈悲と優しさと、誰かを想う心を宿した瞳。心は違えど、その瞳には、覚えがあった。
『アリスは白ウサギだけ追いかけていればいいんだ!』
黒ウサギと同じ顔。その真剣な顔にあの辛そうな黒ウサギの顔がだぶる。
「黒ウサギを、消してしまうところだった……」
違う。私は、消さなければならない。白ウサギか黒ウサギ、どちらかを消さなければならない。世界の為に、消す事を臆してはならない。
視界を影が通り過ぎ、影が白ウサギを羽交い締めにする。白ウサギが体を捩って逃れようとするけど、影――チェシャ猫の方が力は上のようだった。
「今だよ、アリス」
「チェシャ猫、離してください! 僕は」
「のこのこ出てくるなんて、帽子屋が言っていた話と違うね。どういうつもりだい?」
今が、時計を止める、世界の崩壊を止めるチャンス。でも、体が動かない。二人の会話が、頭に入ってこない。
『どちらを選んだって結果は同じ』
そう。女王様の言うとおり、どちらを選んでも結果は一緒。一人が消え、世界の崩壊が止まる事は変わらない。なら、どちらを選んだっていいはず。なのに、私は。
「アリス、貴女にお願いがあるんです!」
「お願い?」
「アリスに何をさせる気だい。白ウサギ」
チェシャ猫の纏う空気が一層と厳しくなる。白ウサギは必死な表情でチェシャ猫を見る。
「チェシャ猫、貴方も分かっているはずです。僕が何をしようとしているか」
「僕は君が何をしたいのかなんて知らないよ」
何、白ウサギは何を言っているの?
何をしようとしているの?
「アリス。君の願いは何ですか?」
「え?」
不意に問われた質問。
「私は」
私の、願いは。城に帰りたい。城に帰って、また女王様やリズと一緒に過ごしていたい。ずっと一緒に。平和な世界で。だけど。
走馬灯のように、ここまでに出会った人達のことが頭に駆け巡る。
『ああ。大事だよ。大事な、家族だ』
黒ウサギを家族だと言った、家族想いな帽子屋。
『笑え、アリス』
泣く私に、笑えと言ってくれた眠りネズミ。
『アリス。夢の中で会えるから』
本当は寂しがり屋な夢魔。そして、愉快で悪戯好きな仕立て屋。
『負けたくなかったんだろ。いーんじゃねーの。それがお前の気持ちだろ』
あぁ、そっか。私はあの時から。やっと分かった。私は。
いつの間にか大切な、愛しい存在になっていた彼等。彼等に出会って、黒ウサギに出会って、笑顔を見て。私は、呪いを解きたいと願ったの。
「チェシャ猫、私、呪いを解きたい。黒ウサギも白ウサギにも消えてほしくなんかない。女王様やリズ、ジャックさん。守りたい人達は今ではもっと増えていて、眠りネズミや夢魔や、帽子屋に仕立て屋、大丈夫と、いつも私の手を握ってくれるチェシャ猫に……皆に、呪いで苦しんでほしくない」
『お前に世界の崩壊は止められない』
あの魔女が、怖いと思った。狂ってしまう程に。だけど、心の奥底で思ったの。まるで魂に刻まれている気持ちが望んだように。私の心は叫んだんだ。
「負けたくない、負けたくないの!」
「アリス、貴女は……」
白ウサギが何かを感じ取った様に呟いた。
「白ウサギ、私、呪いを解きたい。そして、暗黒の魔女に負けたくない!」
「アリス、それはとても危険なことだよ。それに、呪いを解くなんて、不可能だ」
チェシャ猫は一瞬驚いたような顔をして白ウサギの手を離すと、一気に不安げな顔つきに変わった。チェシャ猫にとって予想もしなかった事なのかもしれない。
『アリスは白ウサギだけ追いかけていればいいんだ!』
黒ウサギと同じ顔。その真剣な顔にあの辛そうな黒ウサギの顔がだぶる。
「黒ウサギを、消してしまうところだった……」
違う。私は、消さなければならない。白ウサギか黒ウサギ、どちらかを消さなければならない。世界の為に、消す事を臆してはならない。
視界を影が通り過ぎ、影が白ウサギを羽交い締めにする。白ウサギが体を捩って逃れようとするけど、影――チェシャ猫の方が力は上のようだった。
「今だよ、アリス」
「チェシャ猫、離してください! 僕は」
「のこのこ出てくるなんて、帽子屋が言っていた話と違うね。どういうつもりだい?」
今が、時計を止める、世界の崩壊を止めるチャンス。でも、体が動かない。二人の会話が、頭に入ってこない。
『どちらを選んだって結果は同じ』
そう。女王様の言うとおり、どちらを選んでも結果は一緒。一人が消え、世界の崩壊が止まる事は変わらない。なら、どちらを選んだっていいはず。なのに、私は。
「アリス、貴女にお願いがあるんです!」
「お願い?」
「アリスに何をさせる気だい。白ウサギ」
チェシャ猫の纏う空気が一層と厳しくなる。白ウサギは必死な表情でチェシャ猫を見る。
「チェシャ猫、貴方も分かっているはずです。僕が何をしようとしているか」
「僕は君が何をしたいのかなんて知らないよ」
何、白ウサギは何を言っているの?
何をしようとしているの?
「アリス。君の願いは何ですか?」
「え?」
不意に問われた質問。
「私は」
私の、願いは。城に帰りたい。城に帰って、また女王様やリズと一緒に過ごしていたい。ずっと一緒に。平和な世界で。だけど。
走馬灯のように、ここまでに出会った人達のことが頭に駆け巡る。
『ああ。大事だよ。大事な、家族だ』
黒ウサギを家族だと言った、家族想いな帽子屋。
『笑え、アリス』
泣く私に、笑えと言ってくれた眠りネズミ。
『アリス。夢の中で会えるから』
本当は寂しがり屋な夢魔。そして、愉快で悪戯好きな仕立て屋。
『負けたくなかったんだろ。いーんじゃねーの。それがお前の気持ちだろ』
あぁ、そっか。私はあの時から。やっと分かった。私は。
いつの間にか大切な、愛しい存在になっていた彼等。彼等に出会って、黒ウサギに出会って、笑顔を見て。私は、呪いを解きたいと願ったの。
「チェシャ猫、私、呪いを解きたい。黒ウサギも白ウサギにも消えてほしくなんかない。女王様やリズ、ジャックさん。守りたい人達は今ではもっと増えていて、眠りネズミや夢魔や、帽子屋に仕立て屋、大丈夫と、いつも私の手を握ってくれるチェシャ猫に……皆に、呪いで苦しんでほしくない」
『お前に世界の崩壊は止められない』
あの魔女が、怖いと思った。狂ってしまう程に。だけど、心の奥底で思ったの。まるで魂に刻まれている気持ちが望んだように。私の心は叫んだんだ。
「負けたくない、負けたくないの!」
「アリス、貴女は……」
白ウサギが何かを感じ取った様に呟いた。
「白ウサギ、私、呪いを解きたい。そして、暗黒の魔女に負けたくない!」
「アリス、それはとても危険なことだよ。それに、呪いを解くなんて、不可能だ」
チェシャ猫は一瞬驚いたような顔をして白ウサギの手を離すと、一気に不安げな顔つきに変わった。チェシャ猫にとって予想もしなかった事なのかもしれない。