桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~
「だ、大丈夫!」
きっとチェシャ猫の言う好きは、魚を好きというのと一緒。特別な好きとは違う。だから焦ることなんてない。
速まる鼓動を静めるために深呼吸をする。水の中なのが実感出来ないくらい、酸素が肺に入る。冷たい酸素。ひんやりと喉を冷やし、息へと変わる。
「ほら、チェシャ猫のせいでアリスがため息をついているじゃないですか!」
「よっぽどにゃんこにからかわれた事がショックだったんだねー? お姉ちゃん可哀想」
「今のは深呼吸で」
「そうなのかい? ごめんよ。アリス」
もはや弁解する余地もなく、今度こそため息をつきたくなる。
「ため息ばかりしていたらぁ幸せが逃げますよぉ。笑顔笑顔ー」
「その通りですよ! アリス、元気だして下さい! ほら、笑顔ですよ!」
「笑顔笑顔ー!」
「え、笑顔笑顔ー! って。ん?」
誰もが多少の違和感を覚え、静寂が訪れる。今、知らない声が混じっていたような。しかも、最初の段階で。
「あ、今になって気づいたんですか? ノロマですねぇ」
声が聞こえた方を見ると、白ウサギの一歩下がった横には、小豆色の服に、同色のベレー帽を被った少年。糸目の少年は、視線を一身に浴びて、首を傾けニコリと笑う。元々口元に笑みが浮かんでいたけれど、悪さを企んだのか笑みが一層に深まった。
「ウサギが気付かないなんて可笑しいですねぇ。この長い耳は飾りですか?」
少年は白ウサギの耳を大胆に鷲掴みにする。
「痛いですよ! 海ガメ!」
「可笑しいですねー。飾りだと思ったんですけど。痛いんですかぁ?」
海ガメと呼ばれた少年は、痛がる白ウサギを他所に尚も耳を引っ張り続ける。
「いたたたたた! 助けてください!」
白ウサギが目に涙を貯めて訴える。
「あの! 海ガメ、さん? そろそろ白ウサギの耳を離してあげて!」
未だに白ウサギの長い耳を引っ張ろうとする海ガメに声をかけると、私の存在に気がついたのか手をピタリと止めた。
「そうですねぇ。アリスが言うならー」
海ガメと呼ばれた少年は私に視線を移しながら言い放つ。常に棒読みなせいで、心から言っているように思えない。
「海ガメさんはもしかして」
名乗ってもいないのに呼ばれた名。それに少しだけだけど感じるこの懐かしさ。
「はい。僕も呪いをかけられた一人ですよ」
予想した通り彼も呪いをかけられた人なんだ。最近の勘はよく当たる。
「痛たた。アリス、彼は僕が会わせようとしていた内の一人です」
赤くなった耳を押さえながら白ウサギは海ガメに視線を送った。
「初めましてー。そしてお久しぶりですー。ずっとアリスに会いたかったですよ。僕も、それから店にいる一人と一匹もー」
海ガメがニッコリと笑う。先程よりも笑っているはず、だとは思うんだけど。
好意的に接してくれているみたいだけど、さっきの事もあって侮れない!
「これからよろしくね。海ガメ、さん」
「海ガメでいいですよー。こちらこそよろしくお願いしますぅ」
差し出された手を恐る恐る握る。海ガメと握手って何だか怖い!
チェシャ猫達に助けを求めようと探すけど、先程いた場所には見当たらない。
視線を泳がせる私の視界に、三人が背を向けているのが目に飛び込んでくる。
「ねぇ見て見てー! 蝶々!」
「あ、珍しいですね。蝶が川に入ってくるなんて」
「泳いでいる蝶は初めて見たよ」
……覚悟を決めよう!
「よ、よろしくね。海ガメ」
名前を呼ばれた海ガメがピクリとする。
きっとチェシャ猫の言う好きは、魚を好きというのと一緒。特別な好きとは違う。だから焦ることなんてない。
速まる鼓動を静めるために深呼吸をする。水の中なのが実感出来ないくらい、酸素が肺に入る。冷たい酸素。ひんやりと喉を冷やし、息へと変わる。
「ほら、チェシャ猫のせいでアリスがため息をついているじゃないですか!」
「よっぽどにゃんこにからかわれた事がショックだったんだねー? お姉ちゃん可哀想」
「今のは深呼吸で」
「そうなのかい? ごめんよ。アリス」
もはや弁解する余地もなく、今度こそため息をつきたくなる。
「ため息ばかりしていたらぁ幸せが逃げますよぉ。笑顔笑顔ー」
「その通りですよ! アリス、元気だして下さい! ほら、笑顔ですよ!」
「笑顔笑顔ー!」
「え、笑顔笑顔ー! って。ん?」
誰もが多少の違和感を覚え、静寂が訪れる。今、知らない声が混じっていたような。しかも、最初の段階で。
「あ、今になって気づいたんですか? ノロマですねぇ」
声が聞こえた方を見ると、白ウサギの一歩下がった横には、小豆色の服に、同色のベレー帽を被った少年。糸目の少年は、視線を一身に浴びて、首を傾けニコリと笑う。元々口元に笑みが浮かんでいたけれど、悪さを企んだのか笑みが一層に深まった。
「ウサギが気付かないなんて可笑しいですねぇ。この長い耳は飾りですか?」
少年は白ウサギの耳を大胆に鷲掴みにする。
「痛いですよ! 海ガメ!」
「可笑しいですねー。飾りだと思ったんですけど。痛いんですかぁ?」
海ガメと呼ばれた少年は、痛がる白ウサギを他所に尚も耳を引っ張り続ける。
「いたたたたた! 助けてください!」
白ウサギが目に涙を貯めて訴える。
「あの! 海ガメ、さん? そろそろ白ウサギの耳を離してあげて!」
未だに白ウサギの長い耳を引っ張ろうとする海ガメに声をかけると、私の存在に気がついたのか手をピタリと止めた。
「そうですねぇ。アリスが言うならー」
海ガメと呼ばれた少年は私に視線を移しながら言い放つ。常に棒読みなせいで、心から言っているように思えない。
「海ガメさんはもしかして」
名乗ってもいないのに呼ばれた名。それに少しだけだけど感じるこの懐かしさ。
「はい。僕も呪いをかけられた一人ですよ」
予想した通り彼も呪いをかけられた人なんだ。最近の勘はよく当たる。
「痛たた。アリス、彼は僕が会わせようとしていた内の一人です」
赤くなった耳を押さえながら白ウサギは海ガメに視線を送った。
「初めましてー。そしてお久しぶりですー。ずっとアリスに会いたかったですよ。僕も、それから店にいる一人と一匹もー」
海ガメがニッコリと笑う。先程よりも笑っているはず、だとは思うんだけど。
好意的に接してくれているみたいだけど、さっきの事もあって侮れない!
「これからよろしくね。海ガメ、さん」
「海ガメでいいですよー。こちらこそよろしくお願いしますぅ」
差し出された手を恐る恐る握る。海ガメと握手って何だか怖い!
チェシャ猫達に助けを求めようと探すけど、先程いた場所には見当たらない。
視線を泳がせる私の視界に、三人が背を向けているのが目に飛び込んでくる。
「ねぇ見て見てー! 蝶々!」
「あ、珍しいですね。蝶が川に入ってくるなんて」
「泳いでいる蝶は初めて見たよ」
……覚悟を決めよう!
「よ、よろしくね。海ガメ」
名前を呼ばれた海ガメがピクリとする。