桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~
「逃げろ!」
黒ウサギが叫んだのとほぼ同時に、真っ黒な鎌が振り下ろされる。叫ぶ暇もなく、次の瞬間見えたのはチェシャ猫の後ろ姿。
「おも、いっ」
鎌を受け止め、黒い鎌が跳ね返ったかと思うと、三月ウサギが今度はチェシャ猫に斬りかかっていた。
「けけけけけけけけけけけけけけけけけけ!」
激しい斬撃を繰り返しながら、狂ったように笑う三月ウサギ。
「アリスアリスアリスアリス! ひゃははははは!」
「見ない内に随分と様が変わった、ねっ!」
三月ウサギが振り下す鎌を必死に受け止めるチェシャ猫。受け止められないと判断して避けると、避けきれず鎌が肌を抉る。
「チェシャ猫!」
耐えきれずチェシャ猫の元へ駆け寄ろうと一歩踏み出すと、腕を引かれ後ろへと引き戻された。
「馬鹿! 死ぬ気か!」
黒ウサギを凝視すると、黒ウサギは自分の行動に驚いたのか、手を離し遠ざかる。
「また、助けてくれたね」
「煩い」
気まずそうに顔を横に向けながら呟く黒ウサギ。以前会った時と変わらない態度。黒ウサギは私がまだ、時計を止めようとしていると思っているんだよね。
伝えなきゃ。呪いを解こうとしている事。聞かなきゃ。鏡の在りかを。でも、伝えようとすればするほど、上手く言葉は出てくれない。夢魔に話した時みたいに喋れない。
どうすれば、どうすれば上手く伝えられるの?
緊張と不安が心臓の鼓動を速める。駄目。落ち着いて。落ち着かなきゃ。何度も自分にそう言い聞かせるけれど、思考は回らずに言うべき言葉さえ溢れ落ちていく。
どうすれば――
『落ち着いて』
唐突に頭に響いた声に我にかえると、腕で抱いていたはずの灰色の猫が私の足元にいる。顔をすりすりと甘えるように擦り合わせてニャア、と鳴くと、続けて首の鈴が鳴った。
「あ。もしかして黒ウサギに引っ張られた時に落としちゃった? ごめんね?」
慌ててしゃがみこみ、猫の頭を撫でる。灰色の猫は大丈夫とでも言うかのように再び鳴き、私はほっとする。
そうだよね。落ち着かなきゃ。夢魔に話せたんだもん。きっと大丈夫。大丈夫、だから。
膝に力を入れ、真っ直ぐに黒ウサギを見つめる。黒ウサギは先程とは違った私の視線に気付いたのか、顔を強張らせた。
「何故俺の元にきた。白ウサギを追いかけていればいいって言っただろ。意味、解らなかったのか? 解らなかったのならもう一度」
「解らないよ。解らなかった」
そう、解らなかった。
黒ウサギは私の回答に眉を寄せ、口を開く。
「なら」
「何故黒ウサギが自分を犠牲にして世界を救いたいのか、解らなかったの」
そう、解らなかったの。
黒ウサギの発言を遮って発した私の言葉が予想外だったのか、黒ウサギは目を見開き驚きの表情を見せる。
「白ウサギを選べば貴方は消えてしまうのに。どうして私に白ウサギを選ばせるのか、あの時の私には解らなかった。けれど」
白ウサギが黒ウサギを大事に思っているように、きっと黒ウサギも白ウサギを大事に思っている。だからこそ黒ウサギは自分を犠牲にしようとした。犠牲になって、大切な者の生きる世界を守ろうとしたんだと、今なら思う。
本人に聞いたわけではないから、それが黒ウサギの想いかどうかははっきりとは言えないけれど。
「白ウサギが教えてくれたの。気付かせてくれた。絆と想いを。そして、呪いは解ける事を教えてくれた」
「なんだと」
黒ウサギは先程よりも驚き戸惑う。
黒ウサギが叫んだのとほぼ同時に、真っ黒な鎌が振り下ろされる。叫ぶ暇もなく、次の瞬間見えたのはチェシャ猫の後ろ姿。
「おも、いっ」
鎌を受け止め、黒い鎌が跳ね返ったかと思うと、三月ウサギが今度はチェシャ猫に斬りかかっていた。
「けけけけけけけけけけけけけけけけけけ!」
激しい斬撃を繰り返しながら、狂ったように笑う三月ウサギ。
「アリスアリスアリスアリス! ひゃははははは!」
「見ない内に随分と様が変わった、ねっ!」
三月ウサギが振り下す鎌を必死に受け止めるチェシャ猫。受け止められないと判断して避けると、避けきれず鎌が肌を抉る。
「チェシャ猫!」
耐えきれずチェシャ猫の元へ駆け寄ろうと一歩踏み出すと、腕を引かれ後ろへと引き戻された。
「馬鹿! 死ぬ気か!」
黒ウサギを凝視すると、黒ウサギは自分の行動に驚いたのか、手を離し遠ざかる。
「また、助けてくれたね」
「煩い」
気まずそうに顔を横に向けながら呟く黒ウサギ。以前会った時と変わらない態度。黒ウサギは私がまだ、時計を止めようとしていると思っているんだよね。
伝えなきゃ。呪いを解こうとしている事。聞かなきゃ。鏡の在りかを。でも、伝えようとすればするほど、上手く言葉は出てくれない。夢魔に話した時みたいに喋れない。
どうすれば、どうすれば上手く伝えられるの?
緊張と不安が心臓の鼓動を速める。駄目。落ち着いて。落ち着かなきゃ。何度も自分にそう言い聞かせるけれど、思考は回らずに言うべき言葉さえ溢れ落ちていく。
どうすれば――
『落ち着いて』
唐突に頭に響いた声に我にかえると、腕で抱いていたはずの灰色の猫が私の足元にいる。顔をすりすりと甘えるように擦り合わせてニャア、と鳴くと、続けて首の鈴が鳴った。
「あ。もしかして黒ウサギに引っ張られた時に落としちゃった? ごめんね?」
慌ててしゃがみこみ、猫の頭を撫でる。灰色の猫は大丈夫とでも言うかのように再び鳴き、私はほっとする。
そうだよね。落ち着かなきゃ。夢魔に話せたんだもん。きっと大丈夫。大丈夫、だから。
膝に力を入れ、真っ直ぐに黒ウサギを見つめる。黒ウサギは先程とは違った私の視線に気付いたのか、顔を強張らせた。
「何故俺の元にきた。白ウサギを追いかけていればいいって言っただろ。意味、解らなかったのか? 解らなかったのならもう一度」
「解らないよ。解らなかった」
そう、解らなかった。
黒ウサギは私の回答に眉を寄せ、口を開く。
「なら」
「何故黒ウサギが自分を犠牲にして世界を救いたいのか、解らなかったの」
そう、解らなかったの。
黒ウサギの発言を遮って発した私の言葉が予想外だったのか、黒ウサギは目を見開き驚きの表情を見せる。
「白ウサギを選べば貴方は消えてしまうのに。どうして私に白ウサギを選ばせるのか、あの時の私には解らなかった。けれど」
白ウサギが黒ウサギを大事に思っているように、きっと黒ウサギも白ウサギを大事に思っている。だからこそ黒ウサギは自分を犠牲にしようとした。犠牲になって、大切な者の生きる世界を守ろうとしたんだと、今なら思う。
本人に聞いたわけではないから、それが黒ウサギの想いかどうかははっきりとは言えないけれど。
「白ウサギが教えてくれたの。気付かせてくれた。絆と想いを。そして、呪いは解ける事を教えてくれた」
「なんだと」
黒ウサギは先程よりも驚き戸惑う。