桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~
「呪いは解けるの! その為には鏡が必要だから、だから私は黒ウサギに会いに来たの! 白ウサギは黒ウサギが鏡の在りかを知っているかもって言っていたから」
私がそう言い切ると、黒ウサギの表情が再び険しくなる。
「本気なのか? 呪いを解くって」
消え入りそうなほどか細い声で呟くと、黒ウサギが私を厳しく睨む。
「選ばない気なのか? 俺も、白ウサギも!」
私は首を縦に振り、言葉を紡ぐ。
「選ばないよ。私は白ウサギにも、黒ウサギにも消えてほしくないの」
消えてほしくない。あの時、戸惑って黒ウサギに伝えられなかった言葉を何度も何度も繰り返す。
「消えてほしくない。消えないで」
消えないで。
消えないで。
『私は、貴方の事が――』
私の想いに懐中時計が反応したのか、前代アリスの想いと記憶が時計を通して伝わってくる。呑まれちゃダメ。今は、黒ウサギに伝えなきゃいけない事がある。
「世界は、世界はどうなる!」
突然の黒ウサギの叫びに、前代アリスの記憶や想いから引き離される。
「選ばなければ世界は崩壊する! アリス、お前は多くの命とたった一つの命、どちらが大切かくらい分からない程、バカじゃないだろ!」
多くの命と、たった一つの命。
「どちらも大切だと私は思う。一人の命で沢山の人が助かるなら、それは世界の為の尊い犠牲かもしれない。犠牲のない救いなんてないのかもしれない。でも、犠牲になるたった一つの命は、私の大切な人の命なの。私たちの、大切な人の命なの。自分の命を、天秤にかけて比べたりしないで! 白ウサギも、帽子屋も、眠りネズミも。私も、黒ウサギを大切に思っている! 皆、皆、黒ウサギの帰りを待っている。諦めないで。自分が死ねばいいだなんて思わないで」
自分一人が犠牲になれば良いなんて、そんなのは悲しすぎる。待っている人がいる。だからどうか―
「俺は!」
黒ウサギの瞳が私を捉え、黒ウサギが何かを伝えようとする。その表情は痛みに耐えるかのように悲痛に歪んでいた。けれど黒ウサギの口が再び開く前に、言葉は遮られた。
「二人共、避けて!」
「きゃっ」
背中に衝撃が走り、同時に重さが体にかかる。微かに見えた光景から、吹き飛ばされたチェシャ猫とぶつかったのだと知る。飛ばされた私は、黒ウサギにぶつかり倒れ込んだ。
「大丈夫かい!」
黒ウサギの上に倒れたおかげか、地面には直接ぶつからず、大きな痛みはない。 けれど地面に頭をぶつけたのか、痛みで起き上がる事が出来ない。
「けけけけけけ! ゼンインゼンインゼンインゼンインシヌシヌシヌ!」
三月ウサギの狂った雄叫びを聞きながら、痛む頭を振り払おうと息を止めた。
「アリス! アリス!」
チェシャ猫が私を呼ぶ声が聞こえてくる。けど身体は意を反し動かない。意識も揺らいだまま、深い闇へと落ちていく。
「けけけけけけけけけけけけ」
「くっ、しつこいね」
振り下ろされる鎌が、標的を捕える事が出来ず地面を削る。マントが翻り風を切った。 戦闘が再開されたのを感じた直後、先程の夢が今度は鮮明に甦る。
『黒ウサギでいいの?』
そう十三代目アリスに聞いたのは、猫耳の青年。十三代目のチェシャ猫。
二人がいるのはどこかの部屋の中で、前代のアリスはベッドに座っている。前代チェシャ猫はドアに寄りかかりながら、前代アリスの答えを待つ。
『私は黒ウサギに消えてほしくないわ。白ウサギにも消えてほしくないけれど、黒ウサギが消えてしまうのはもっと嫌……』
俯きがちに、か細い声で前代アリスが答える。
私がそう言い切ると、黒ウサギの表情が再び険しくなる。
「本気なのか? 呪いを解くって」
消え入りそうなほどか細い声で呟くと、黒ウサギが私を厳しく睨む。
「選ばない気なのか? 俺も、白ウサギも!」
私は首を縦に振り、言葉を紡ぐ。
「選ばないよ。私は白ウサギにも、黒ウサギにも消えてほしくないの」
消えてほしくない。あの時、戸惑って黒ウサギに伝えられなかった言葉を何度も何度も繰り返す。
「消えてほしくない。消えないで」
消えないで。
消えないで。
『私は、貴方の事が――』
私の想いに懐中時計が反応したのか、前代アリスの想いと記憶が時計を通して伝わってくる。呑まれちゃダメ。今は、黒ウサギに伝えなきゃいけない事がある。
「世界は、世界はどうなる!」
突然の黒ウサギの叫びに、前代アリスの記憶や想いから引き離される。
「選ばなければ世界は崩壊する! アリス、お前は多くの命とたった一つの命、どちらが大切かくらい分からない程、バカじゃないだろ!」
多くの命と、たった一つの命。
「どちらも大切だと私は思う。一人の命で沢山の人が助かるなら、それは世界の為の尊い犠牲かもしれない。犠牲のない救いなんてないのかもしれない。でも、犠牲になるたった一つの命は、私の大切な人の命なの。私たちの、大切な人の命なの。自分の命を、天秤にかけて比べたりしないで! 白ウサギも、帽子屋も、眠りネズミも。私も、黒ウサギを大切に思っている! 皆、皆、黒ウサギの帰りを待っている。諦めないで。自分が死ねばいいだなんて思わないで」
自分一人が犠牲になれば良いなんて、そんなのは悲しすぎる。待っている人がいる。だからどうか―
「俺は!」
黒ウサギの瞳が私を捉え、黒ウサギが何かを伝えようとする。その表情は痛みに耐えるかのように悲痛に歪んでいた。けれど黒ウサギの口が再び開く前に、言葉は遮られた。
「二人共、避けて!」
「きゃっ」
背中に衝撃が走り、同時に重さが体にかかる。微かに見えた光景から、吹き飛ばされたチェシャ猫とぶつかったのだと知る。飛ばされた私は、黒ウサギにぶつかり倒れ込んだ。
「大丈夫かい!」
黒ウサギの上に倒れたおかげか、地面には直接ぶつからず、大きな痛みはない。 けれど地面に頭をぶつけたのか、痛みで起き上がる事が出来ない。
「けけけけけけ! ゼンインゼンインゼンインゼンインシヌシヌシヌ!」
三月ウサギの狂った雄叫びを聞きながら、痛む頭を振り払おうと息を止めた。
「アリス! アリス!」
チェシャ猫が私を呼ぶ声が聞こえてくる。けど身体は意を反し動かない。意識も揺らいだまま、深い闇へと落ちていく。
「けけけけけけけけけけけけ」
「くっ、しつこいね」
振り下ろされる鎌が、標的を捕える事が出来ず地面を削る。マントが翻り風を切った。 戦闘が再開されたのを感じた直後、先程の夢が今度は鮮明に甦る。
『黒ウサギでいいの?』
そう十三代目アリスに聞いたのは、猫耳の青年。十三代目のチェシャ猫。
二人がいるのはどこかの部屋の中で、前代のアリスはベッドに座っている。前代チェシャ猫はドアに寄りかかりながら、前代アリスの答えを待つ。
『私は黒ウサギに消えてほしくないわ。白ウサギにも消えてほしくないけれど、黒ウサギが消えてしまうのはもっと嫌……』
俯きがちに、か細い声で前代アリスが答える。