桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~
「恐怖からの解放?」
「三月ウサギの呪いは、狂気に呑まれるほどの恐怖を感じる事。哀れだね、三月ウサギ」
三月ウサギはきっと、三月ウサギなりに恐怖から逃れる方法を考えたんだ。そうして出た結論が、世界を壊す事。狂っていれば、そう考えてもおかしくはない。
「解っただろアリス。世界の前に呪いで人も限界がくる。コイツはもう、限界だ。世界だって鏡を探していればどんどん壊れていく」
呪い、限界、世界。単語が頭の中でぐるぐると回り、せっかく振り切った焦りを囃し立てる。
「それでも」
『アリス、頼めますか?』
「託された想いを」
『呪いを解くまで死なないで』
「優しい約束を」
『いってらっしゃい。アリス』
『無事に帰ってきてね』
「守りたい人達を、諦める事なんてしたくないから」
黒ウサギの方を振り返り、もう一度視線を合わせる。漆黒の瞳が、私の真意を確かめるように見つめ返してきた。
「私を信じてなんて言わない。けど、白ウサギの事は、貴方の大切な人の事は信じてほしいの」
それが今の私に言える精一杯。私は信じてもらえなくとも、せめて白ウサギは信じてあげて欲しい。ほんの少し、ほんの少しでも二人の距離が縮まったのなら。それは呪いを解く希望になるかもしれない。
「お前、何でそこまで俺たちウサギに心を寄せるんだ」
「危ない!」
チェシャ猫の切羽詰まった声に振り向くと、三月ウサギがこちらに向かってきていた。チェシャ猫が私を庇うように前に出る。三月ウサギの動きが早すぎて、チェシャ猫が防御の姿勢をとることができないでいた。頭ばかりが動いて状況を理解する。三月ウサギの手に握られた鎌に、チェシャ猫と私の身体が裂かれる想像しか出来なかった。
「ケケケケケケ! アリスアリスアリスアリス!」
鎌が振り下ろされる瞬間、怖くなって目を瞑る。広がる、一面の真っ暗な闇。
びちゃり、と嫌な音が耳に響く。次の瞬間見えたのは、飛び散る真っ赤な血潮。
「う、ウアアアアアアア」
目の前で起こった出来事に信じられずに、足の力が抜ける。頬に飛んできた暖かな液体さえ、拭う事を忘れた。
「何が、起こったの? 何で、何で、三月ウサギの胸から血が」
斬られたのは私たちのはずだ。けれど斬られた痛みはないし、実際に苦しんでいるのは三月ウサギの方だった。黒ウサギも呆然としていて、怪我をした様子はない。
「お怪我は。アリス様」
聞き慣れない声が頭上で発せられる。
視線をずらした先に見えたのは、真っ赤な血を滴らせた剣。
そして、関わってはいけない青を見た。その青は城で見かけたことのあるものだ。凶悪な事件やレベルの高い任務を行う事が多い軍で、兵士は全員剣を極めた猛者達ばかり。
そしてその青を使うのは最後の手段のはず。
力をなくした三月ウサギの体が地面に崩れ落ちる。チェシャ猫が呆然とする私の肩を掴むと、スペード兵を睨み付ける。
「アンタ、スペード兵だね。しかもエース。どうしてアンタみたいな上役がここに。何の用だい?」
エースは何かを見極めるように黙り、チェシャ猫を見下ろす。
「女王様のご命令です。アリス様。一度ご帰還なさるようにとの命を受けてお迎えに参りました」
チェシャ猫の事を無視し、私を見つめ言い放つ。私に答える権限すら与えられていないと言うように、林の方向から数人の兵士が出てくる。青い隊服を身に纏った兵士達。慎重に、しかし素早く近寄って。気づけば黒ウサギをも取り囲んでいた。
「そして、ウサギを捕えるようとのご命令です」
「気配を消していたのか」
黒ウサギは銃を構え、兵士の動きを見極める。
「三月ウサギの呪いは、狂気に呑まれるほどの恐怖を感じる事。哀れだね、三月ウサギ」
三月ウサギはきっと、三月ウサギなりに恐怖から逃れる方法を考えたんだ。そうして出た結論が、世界を壊す事。狂っていれば、そう考えてもおかしくはない。
「解っただろアリス。世界の前に呪いで人も限界がくる。コイツはもう、限界だ。世界だって鏡を探していればどんどん壊れていく」
呪い、限界、世界。単語が頭の中でぐるぐると回り、せっかく振り切った焦りを囃し立てる。
「それでも」
『アリス、頼めますか?』
「託された想いを」
『呪いを解くまで死なないで』
「優しい約束を」
『いってらっしゃい。アリス』
『無事に帰ってきてね』
「守りたい人達を、諦める事なんてしたくないから」
黒ウサギの方を振り返り、もう一度視線を合わせる。漆黒の瞳が、私の真意を確かめるように見つめ返してきた。
「私を信じてなんて言わない。けど、白ウサギの事は、貴方の大切な人の事は信じてほしいの」
それが今の私に言える精一杯。私は信じてもらえなくとも、せめて白ウサギは信じてあげて欲しい。ほんの少し、ほんの少しでも二人の距離が縮まったのなら。それは呪いを解く希望になるかもしれない。
「お前、何でそこまで俺たちウサギに心を寄せるんだ」
「危ない!」
チェシャ猫の切羽詰まった声に振り向くと、三月ウサギがこちらに向かってきていた。チェシャ猫が私を庇うように前に出る。三月ウサギの動きが早すぎて、チェシャ猫が防御の姿勢をとることができないでいた。頭ばかりが動いて状況を理解する。三月ウサギの手に握られた鎌に、チェシャ猫と私の身体が裂かれる想像しか出来なかった。
「ケケケケケケ! アリスアリスアリスアリス!」
鎌が振り下ろされる瞬間、怖くなって目を瞑る。広がる、一面の真っ暗な闇。
びちゃり、と嫌な音が耳に響く。次の瞬間見えたのは、飛び散る真っ赤な血潮。
「う、ウアアアアアアア」
目の前で起こった出来事に信じられずに、足の力が抜ける。頬に飛んできた暖かな液体さえ、拭う事を忘れた。
「何が、起こったの? 何で、何で、三月ウサギの胸から血が」
斬られたのは私たちのはずだ。けれど斬られた痛みはないし、実際に苦しんでいるのは三月ウサギの方だった。黒ウサギも呆然としていて、怪我をした様子はない。
「お怪我は。アリス様」
聞き慣れない声が頭上で発せられる。
視線をずらした先に見えたのは、真っ赤な血を滴らせた剣。
そして、関わってはいけない青を見た。その青は城で見かけたことのあるものだ。凶悪な事件やレベルの高い任務を行う事が多い軍で、兵士は全員剣を極めた猛者達ばかり。
そしてその青を使うのは最後の手段のはず。
力をなくした三月ウサギの体が地面に崩れ落ちる。チェシャ猫が呆然とする私の肩を掴むと、スペード兵を睨み付ける。
「アンタ、スペード兵だね。しかもエース。どうしてアンタみたいな上役がここに。何の用だい?」
エースは何かを見極めるように黙り、チェシャ猫を見下ろす。
「女王様のご命令です。アリス様。一度ご帰還なさるようにとの命を受けてお迎えに参りました」
チェシャ猫の事を無視し、私を見つめ言い放つ。私に答える権限すら与えられていないと言うように、林の方向から数人の兵士が出てくる。青い隊服を身に纏った兵士達。慎重に、しかし素早く近寄って。気づけば黒ウサギをも取り囲んでいた。
「そして、ウサギを捕えるようとのご命令です」
「気配を消していたのか」
黒ウサギは銃を構え、兵士の動きを見極める。