桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~
「ありがとう、ダイナ」
もう一度そう呟くと、最後に鈴の音を返事に残して、ダイナの姿はこの場から完全に消えた。
「チェシャ猫よりチェシャ猫らしい猫だな」
「それ、僕に喧嘩売っているのかい?」
ダイナが消えると、黒ウサギがぽつりと漏らした呟きにチェシャ猫が反応する。
ずっと心残りだった存在に、胸が締め付けられる。 一代目アリスの猫。もっと触れ合っていたかった。聞きたいことが沢山あった。
寂しさを胸に秘め、後ろを振り返る。二人を見て一瞬不安を覚えるも、体も服もボロボロなのに、平気そうな顔で会話していて頬が緩んだ。
「いや、眠りネズミがいたらそう言っただろうと思って」
責任転嫁はだめだよ、そう言おうと口を開く。けれど自然に微笑んだ黒ウサギの笑顔に見とれてしまった。
優しい微笑み。きっとそれは黒ウサギの心からの笑顔で。魔女が現れる前にみせてくれた微笑みよりも、ずっとずっと嬉しそうに見えた。
「ふふっ。現れたと思ったら消えて、神出鬼没。ダイナのほうがチェシャ猫みたいかも」
黒ウサギに同意すると、チェシャ猫が唇を尖らせて拗ねてしまう。チェシャ猫って意外に可愛い。
「僕もアリスの猫だけど。アリスはあの猫の方が好きなのかい?」
「へ」
じっ、と穴が開くくらい見つめられて顔に熱が集まっていく。 いきなりすぎて返答に困った。好きに順序なんてないのに。
そういえば以前、帽子屋の館でもチェシャ猫はアリスのチェシャ猫と言っていた。
『アリス。僕はアリスのチェシャ猫』
もしここでダイナの方が好きだと、もしくはダイナだけが私の猫だと告げたなら、チェシャ猫は私から離れていのだろうか。
「チェシャ猫は私のチェシャ猫なんだよね?」
不安になって質問を質問で返してしまう。答えならもう分かりきっているのに。
「僕はアリスのチェシャ猫だよ。ずっとそれは変わらないよ」
的を射ない私の質問に、嫌な顔もせず答える。予想通りのチェシャ猫の答えに、私は深く考えずに頷いた。
けれど私は、チェシャ猫を私の猫だと言うにはしっくりこない気がして、チェシャ猫の望む答えをあげることが出来ない。
「私は、例え昔から継がれた関係だったとしても、私は私として二人が大好きだよ。好きに順序なんて」
ない。
言葉にしてみれば、また同じ違和感があった。
アリスの記憶があったとしても、目の前にいて私と出会ったチェシャ猫やダイナは、それぞれ個を持っている。前代のチェシャ猫と同じではないし、彼は彼として私と出会い、私はチェシャ猫を、ダイナを好きになった。その言葉に偽りはない。
なら、こんなにも落ち着かないのは好きに順序が出来てしまったから?
「ダイナの方が好きなのかい?」
「あ、えっと」
言葉の歯切れが悪かったのが気に障ったのか、チェシャ猫が不満げにこちらを見つめている。
「嘘だよ。同じくらい好きでいてくれているんだろう? 勿論、黒ウサギのことも」
「ばっ、俺の事を出すな」
「もう! 二人共!」
からかわれた事に気付き、今までの思考を放り投げた。チェシャ猫だけでなく黒ウサギまでもが笑う。
声を出して笑った二人を見て、それだけでいつもなら嬉しいと感じるのに、今はそれよりも恥ずかしさと小さな憤りが勝った。
「アリスらしいな」
「怒らないで。嬉しいんだよ」
暖かい大きな手で頭を撫でられる。チェシャ猫が、黒ウサギが笑って、二人にこんな風に怒って、拗ねて、慰められて。
全ての初めては、魔女に屈しなかったから、諦めなかったからこそ得たもの。
もう一度そう呟くと、最後に鈴の音を返事に残して、ダイナの姿はこの場から完全に消えた。
「チェシャ猫よりチェシャ猫らしい猫だな」
「それ、僕に喧嘩売っているのかい?」
ダイナが消えると、黒ウサギがぽつりと漏らした呟きにチェシャ猫が反応する。
ずっと心残りだった存在に、胸が締め付けられる。 一代目アリスの猫。もっと触れ合っていたかった。聞きたいことが沢山あった。
寂しさを胸に秘め、後ろを振り返る。二人を見て一瞬不安を覚えるも、体も服もボロボロなのに、平気そうな顔で会話していて頬が緩んだ。
「いや、眠りネズミがいたらそう言っただろうと思って」
責任転嫁はだめだよ、そう言おうと口を開く。けれど自然に微笑んだ黒ウサギの笑顔に見とれてしまった。
優しい微笑み。きっとそれは黒ウサギの心からの笑顔で。魔女が現れる前にみせてくれた微笑みよりも、ずっとずっと嬉しそうに見えた。
「ふふっ。現れたと思ったら消えて、神出鬼没。ダイナのほうがチェシャ猫みたいかも」
黒ウサギに同意すると、チェシャ猫が唇を尖らせて拗ねてしまう。チェシャ猫って意外に可愛い。
「僕もアリスの猫だけど。アリスはあの猫の方が好きなのかい?」
「へ」
じっ、と穴が開くくらい見つめられて顔に熱が集まっていく。 いきなりすぎて返答に困った。好きに順序なんてないのに。
そういえば以前、帽子屋の館でもチェシャ猫はアリスのチェシャ猫と言っていた。
『アリス。僕はアリスのチェシャ猫』
もしここでダイナの方が好きだと、もしくはダイナだけが私の猫だと告げたなら、チェシャ猫は私から離れていのだろうか。
「チェシャ猫は私のチェシャ猫なんだよね?」
不安になって質問を質問で返してしまう。答えならもう分かりきっているのに。
「僕はアリスのチェシャ猫だよ。ずっとそれは変わらないよ」
的を射ない私の質問に、嫌な顔もせず答える。予想通りのチェシャ猫の答えに、私は深く考えずに頷いた。
けれど私は、チェシャ猫を私の猫だと言うにはしっくりこない気がして、チェシャ猫の望む答えをあげることが出来ない。
「私は、例え昔から継がれた関係だったとしても、私は私として二人が大好きだよ。好きに順序なんて」
ない。
言葉にしてみれば、また同じ違和感があった。
アリスの記憶があったとしても、目の前にいて私と出会ったチェシャ猫やダイナは、それぞれ個を持っている。前代のチェシャ猫と同じではないし、彼は彼として私と出会い、私はチェシャ猫を、ダイナを好きになった。その言葉に偽りはない。
なら、こんなにも落ち着かないのは好きに順序が出来てしまったから?
「ダイナの方が好きなのかい?」
「あ、えっと」
言葉の歯切れが悪かったのが気に障ったのか、チェシャ猫が不満げにこちらを見つめている。
「嘘だよ。同じくらい好きでいてくれているんだろう? 勿論、黒ウサギのことも」
「ばっ、俺の事を出すな」
「もう! 二人共!」
からかわれた事に気付き、今までの思考を放り投げた。チェシャ猫だけでなく黒ウサギまでもが笑う。
声を出して笑った二人を見て、それだけでいつもなら嬉しいと感じるのに、今はそれよりも恥ずかしさと小さな憤りが勝った。
「アリスらしいな」
「怒らないで。嬉しいんだよ」
暖かい大きな手で頭を撫でられる。チェシャ猫が、黒ウサギが笑って、二人にこんな風に怒って、拗ねて、慰められて。
全ての初めては、魔女に屈しなかったから、諦めなかったからこそ得たもの。