桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~
胸がいっぱいになる。恥ずかしさなんてどこか行ってしまった。チェシャ猫に撫でられたからかもしれないけれど。この小さな幸せを、もっと感じていたい。今度は皆と。皆が笑って、今よりもっと幸せを感じたい。大きな幸せにしたい。
「逃がさない」
土を踏む音と同時に耳に届いた不穏な言葉に、チェシャ猫が瞬時に行動し私は背後に誘導された。贅沢な私の願いの反動だろうか。欲張りすぎてしまった?
刃物が鼓膜を射抜くような音に、反射的に体がびくりと震えた。降り下ろされただろう長剣を、黒ウサギは銃で受け止めている。
「スペードのエース!」
「女王の命令に背くのならば、三月ウサギより先に、黒ウサギ、貴様を先に処分する」
狂気に気を失っていたはずのエースが、何事もなかったかのように渾身の力で剣を振るう。
「黒ウサギ! 三月ウサギは!」
後ろに未だに横たわる三月ウサギからは、先ほどの傷以外目立った外傷は見られなかった。エースからは距離が離れていたからなのか、攻撃を受けずに済んだようだ。
三月ウサギの無事に、ほっとして体の力が抜ける。しかし続けざまに響く金属のぶつかり合いに、直ぐに緊張が走った。
「アリスはここにいて。僕は黒ウサギの援護をするよ」
チェシャ猫が足を踏み出した瞬間、背後から気配を感じ振り返る。晴れない空は、森の奥を照らしてはくれない。闇に包まれた森の奥から近付く新たな存在。砂を踏む音が段々と暗がりから近付いてくる。
「まずいね。兵士だよ!」
暗がりを見つめていたチェシャ猫が、私を引き寄せる。後ろではエースが、目の前からは数人の兵士が迫って来ていた。絶体絶命かもしれない。
ここで捕らえられるわけも、三月ウサギと黒ウサギを死なせるわけにいかないのに!
仲間を失う恐怖が、敵が近付くにつれじわじわと浸透していく。逃げようにも、エースを倒さないことには振り切れない。背中を見せれば、きっと斬られる。不安が伝わったのか、チェシャ猫が腰に回した腕に力を込めてくれた。
「アリスも三月ウサギも、僕が守るよ」
透き通った茶色の瞳に、ほっと息を吐く。今はチェシャ猫の言葉を信じよう。でも、ただ守られるだけじゃない。私も行動しなきゃ。私も皆を守るって、固く誓ったのだから。
「アリス様、でお間違いないですね?」
暗闇に包まれた木の間から現れたのは数十人のクローバーの兵士。その中の一人が私とチェシャ猫を交互に見た後、再び私に視線を戻して問う。
見知らぬ顔。同じ城にいたはずなのに、全く面識がないのが不思議だった。兵士は私のことを知っていて、黙る私との距離をぐんぐんと縮めてくる。捕まる覚悟をした瞬間、クローバー兵は全員ピタリと一定の距離で止まる。
殺気立っていたチェシャ猫も不思議に思ったのか、はりつめた空気を緩ませた。
「女王陛下の命令は絶対ですアリス様。裁判所へどうぞ」
「裁判所?」
クローバー兵がそう告げると同時、どこからかトランプのカードが襲いかかってきた。
数えきれないほど多いトランプは、一瞬にして私やチェシャ猫、黒ウサギやエースまでをも包む。視界全てが、トランプのカードで埋められた。
スペード兵とは違い、普段は戦闘とはあまり関わりないクローバー兵。国の農業や治安維持を担当とする彼らが、武力的なことはしないと予想はしていたのだけど、どうやら淡い期待に終わったみたいだった。真っ暗な視界が開けていく。
「ここは」
「逃がさない」
土を踏む音と同時に耳に届いた不穏な言葉に、チェシャ猫が瞬時に行動し私は背後に誘導された。贅沢な私の願いの反動だろうか。欲張りすぎてしまった?
刃物が鼓膜を射抜くような音に、反射的に体がびくりと震えた。降り下ろされただろう長剣を、黒ウサギは銃で受け止めている。
「スペードのエース!」
「女王の命令に背くのならば、三月ウサギより先に、黒ウサギ、貴様を先に処分する」
狂気に気を失っていたはずのエースが、何事もなかったかのように渾身の力で剣を振るう。
「黒ウサギ! 三月ウサギは!」
後ろに未だに横たわる三月ウサギからは、先ほどの傷以外目立った外傷は見られなかった。エースからは距離が離れていたからなのか、攻撃を受けずに済んだようだ。
三月ウサギの無事に、ほっとして体の力が抜ける。しかし続けざまに響く金属のぶつかり合いに、直ぐに緊張が走った。
「アリスはここにいて。僕は黒ウサギの援護をするよ」
チェシャ猫が足を踏み出した瞬間、背後から気配を感じ振り返る。晴れない空は、森の奥を照らしてはくれない。闇に包まれた森の奥から近付く新たな存在。砂を踏む音が段々と暗がりから近付いてくる。
「まずいね。兵士だよ!」
暗がりを見つめていたチェシャ猫が、私を引き寄せる。後ろではエースが、目の前からは数人の兵士が迫って来ていた。絶体絶命かもしれない。
ここで捕らえられるわけも、三月ウサギと黒ウサギを死なせるわけにいかないのに!
仲間を失う恐怖が、敵が近付くにつれじわじわと浸透していく。逃げようにも、エースを倒さないことには振り切れない。背中を見せれば、きっと斬られる。不安が伝わったのか、チェシャ猫が腰に回した腕に力を込めてくれた。
「アリスも三月ウサギも、僕が守るよ」
透き通った茶色の瞳に、ほっと息を吐く。今はチェシャ猫の言葉を信じよう。でも、ただ守られるだけじゃない。私も行動しなきゃ。私も皆を守るって、固く誓ったのだから。
「アリス様、でお間違いないですね?」
暗闇に包まれた木の間から現れたのは数十人のクローバーの兵士。その中の一人が私とチェシャ猫を交互に見た後、再び私に視線を戻して問う。
見知らぬ顔。同じ城にいたはずなのに、全く面識がないのが不思議だった。兵士は私のことを知っていて、黙る私との距離をぐんぐんと縮めてくる。捕まる覚悟をした瞬間、クローバー兵は全員ピタリと一定の距離で止まる。
殺気立っていたチェシャ猫も不思議に思ったのか、はりつめた空気を緩ませた。
「女王陛下の命令は絶対ですアリス様。裁判所へどうぞ」
「裁判所?」
クローバー兵がそう告げると同時、どこからかトランプのカードが襲いかかってきた。
数えきれないほど多いトランプは、一瞬にして私やチェシャ猫、黒ウサギやエースまでをも包む。視界全てが、トランプのカードで埋められた。
スペード兵とは違い、普段は戦闘とはあまり関わりないクローバー兵。国の農業や治安維持を担当とする彼らが、武力的なことはしないと予想はしていたのだけど、どうやら淡い期待に終わったみたいだった。真っ暗な視界が開けていく。
「ここは」