桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~
無視するわけじゃない。出来るはずない。でも、目を反らしてきたのも事実。世界の崩壊を迎えている今、鏡を探す時間なんてあるのか、それに、女王様の言う通り呪いを解く鏡は見つかるかどうかさえも分からない。 そんな賭けに近い方法に、女王様が反対するのは当たり前だ。
「鏡は見つける。俺も白ウサギも、アリスと約束した」
私が声を出すより早く、黒ウサギが言葉を紡ぐ。いつの間にか隣に来た黒ウサギは、エースとの戦闘で更にボロボロだ。けれども、しっかり立って、私に優しげな視線をくれた。
「そうだろ、アリス?」
微笑んだ黒ウサギを見て、泣きそうになりながらも堪えて頷く。女王様は何も言わず怪訝そうな表情を作った。
ざわ、と裁判所が突如騒がしくなる。周りを見渡すと、私達を囲んだスペード兵やクローバー兵だけでなく、陪審員の姿もあった。黒ウサギの一言が予想外だったのか、陪審員達も口々に騒ぎ始める。隣の人と話し合う人もいれば、席を立ち、あからさまに抗議する人もいた。指を指して、こちらを罵る声もある。
誕生日パーティーで私を祝ってくれた人達は皆、今では私を疎んでいる。そのことを身体に浴びせられ、目眩がするようだった。
「静粛に!」
女王様が甲高い声でそう叫ぶと、騒がしかった場が静寂に包まれた。誰一人、口を開く者はいない。首がはねられるかもしれないと恐れている。
「アリス、黒ウサギの時計を止めなさい」
「止めない。私は呪いを解くの」
今度は私が反撃に出る番。たとえどんなに疎まれても、非難されても、譲れない想いがある。
「黒ウサギの時計も、白ウサギの時計も止めない。私が止めるのは世界の崩壊」
屁理屈を言っている自覚はある。けれど、ただの我が儘を言っているつもりはない。
「呪いは終わらない。誰かを犠牲にしても、また次の犠牲がでる。もう、こんな悲劇は終わりにしたいの。鏡は必ず見つける。白ウサギも、帽子屋も協力してくれている。皆が協力してくれれば、絶対に見つかる」
「何故そこまで言い切れるのよ。今までだって鏡を探さなかったわけではないわ。多くの者が何百年とかけて鏡を探し求めた。それだけ探して見つからない物が、何故今見つかると言うのよ。鏡は見つからない。魔女に惑わされているのよ。目を醒ましなさい」
「私は白ウサギを、皆を信じている」
言い切った私に、女王様は決心したかのように目を閉じる。
「何を言っても無駄なようね。あんたの我が儘には呆れるわ。裁判の時よ。判決を下すわ。アリス、裁判の判決は」
女王様が息を吸う。沈黙の時間が、いやに長く思えた。誰もが女王様の一言に息を飲む。
「女王様、私を信じて!」
動いた長針の針。無情にも、冷酷な判決がくだされる。
「有罪よ、アリス! 兵士達、アリスとチェシャ猫、黒ウサギを捕らえなさい!」
「アリス、逃げよう!」
一斉に迫る兵士を見てチェシャ猫が叫ぶ。腕を引っ張られても、私は女王様から目を反らすことが出来なかった。
私を見下ろす、冷たい瞳。共に過ごした、我が儘で意地っ張りで、不器用だけど優しい女王様の影はどこにもなくて。悪い夢を見ているような錯覚さえする。悪い夢なら覚めて。夢なら、夢魔、返事をして。夢なら誰か、私の目を覚まして。そして、あの木漏れ日の優しい時間に私を――
「アリス! 何している! 早くここからでるぞ!」
兵士の雄叫びが響く空間の中、黒ウサギの声で現実に引き戻される。
「煩わしいことは忘れておしまい。今は逃げよう」
ショックで動けない私を、チェシャ猫が自分の元に引き寄せる。
「鏡は見つける。俺も白ウサギも、アリスと約束した」
私が声を出すより早く、黒ウサギが言葉を紡ぐ。いつの間にか隣に来た黒ウサギは、エースとの戦闘で更にボロボロだ。けれども、しっかり立って、私に優しげな視線をくれた。
「そうだろ、アリス?」
微笑んだ黒ウサギを見て、泣きそうになりながらも堪えて頷く。女王様は何も言わず怪訝そうな表情を作った。
ざわ、と裁判所が突如騒がしくなる。周りを見渡すと、私達を囲んだスペード兵やクローバー兵だけでなく、陪審員の姿もあった。黒ウサギの一言が予想外だったのか、陪審員達も口々に騒ぎ始める。隣の人と話し合う人もいれば、席を立ち、あからさまに抗議する人もいた。指を指して、こちらを罵る声もある。
誕生日パーティーで私を祝ってくれた人達は皆、今では私を疎んでいる。そのことを身体に浴びせられ、目眩がするようだった。
「静粛に!」
女王様が甲高い声でそう叫ぶと、騒がしかった場が静寂に包まれた。誰一人、口を開く者はいない。首がはねられるかもしれないと恐れている。
「アリス、黒ウサギの時計を止めなさい」
「止めない。私は呪いを解くの」
今度は私が反撃に出る番。たとえどんなに疎まれても、非難されても、譲れない想いがある。
「黒ウサギの時計も、白ウサギの時計も止めない。私が止めるのは世界の崩壊」
屁理屈を言っている自覚はある。けれど、ただの我が儘を言っているつもりはない。
「呪いは終わらない。誰かを犠牲にしても、また次の犠牲がでる。もう、こんな悲劇は終わりにしたいの。鏡は必ず見つける。白ウサギも、帽子屋も協力してくれている。皆が協力してくれれば、絶対に見つかる」
「何故そこまで言い切れるのよ。今までだって鏡を探さなかったわけではないわ。多くの者が何百年とかけて鏡を探し求めた。それだけ探して見つからない物が、何故今見つかると言うのよ。鏡は見つからない。魔女に惑わされているのよ。目を醒ましなさい」
「私は白ウサギを、皆を信じている」
言い切った私に、女王様は決心したかのように目を閉じる。
「何を言っても無駄なようね。あんたの我が儘には呆れるわ。裁判の時よ。判決を下すわ。アリス、裁判の判決は」
女王様が息を吸う。沈黙の時間が、いやに長く思えた。誰もが女王様の一言に息を飲む。
「女王様、私を信じて!」
動いた長針の針。無情にも、冷酷な判決がくだされる。
「有罪よ、アリス! 兵士達、アリスとチェシャ猫、黒ウサギを捕らえなさい!」
「アリス、逃げよう!」
一斉に迫る兵士を見てチェシャ猫が叫ぶ。腕を引っ張られても、私は女王様から目を反らすことが出来なかった。
私を見下ろす、冷たい瞳。共に過ごした、我が儘で意地っ張りで、不器用だけど優しい女王様の影はどこにもなくて。悪い夢を見ているような錯覚さえする。悪い夢なら覚めて。夢なら、夢魔、返事をして。夢なら誰か、私の目を覚まして。そして、あの木漏れ日の優しい時間に私を――
「アリス! 何している! 早くここからでるぞ!」
兵士の雄叫びが響く空間の中、黒ウサギの声で現実に引き戻される。
「煩わしいことは忘れておしまい。今は逃げよう」
ショックで動けない私を、チェシャ猫が自分の元に引き寄せる。