桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~
スペード兵やクローバー兵は、先程の作業の続きをするかのように私達に剣を向ける。一方、ジャックさんの率いるハート兵士達は、そんな兵士達に攻撃を加え始めた。ぶつかり合う、女王様率いる軍と、ジャックさん率いるハート軍。裁判所はもう戦の場になり、並んでいた陪審員達は巻き込まれまいと惑いながら次々と逃げていく。
「道が開いたね」
近くの敵兵を倒しながら、チェシャ猫が呟く。
兵を引き裂くチェシャ猫の素早い身のこなしに見とれながらも、私は首を縦に降った。
「アリス殿に、黒ウサギ殿! 今のうちに逃げるのですぞ!」
「ジャックさん! ありがとう!」
応戦するジャックさんに届くように叫ぶ。
こんなにも心強い味方が現れるなんて、想像もしなかった。
「アリス、チェシャ猫、無事か!」
「私とチェシャ猫は大丈夫。けど三月ウサギがまだ目を覚まさなくて」
「三月ウサギなら平気だ。直ぐにここを出るぞ」
兵士と戦っていた黒ウサギは近くに来ると、素早くウサギの穴を出す。目の前に出現した穴は、時空を繋いでいるのか、どこか異質さを感じる。入るのが躊躇われるような、先の見えない真っ暗な穴。
何度見ても、少しだけ怖い。落ちる感覚も、穴に入るたび時計が見せる記憶もいまだに慣れない。
「よし。先に三月ウサギを穴に入れる。アリス、チェシャ猫、三月ウサギをこっちに」
「うん!」
三月ウサギの崩れそうな体を支えながら、黒ウサギの元へ進む。チェシャ猫も三月ウサギを支えているからかもしれないけど、三月ウサギはいやに軽い。ふとシャツの袖から見えた三月ウサギの細い腕に、不安になった。帽子屋の館を出てから、満足に食べてないのかもしれない。
「後は俺が三月ウサギを」
三月ウサギの体を黒ウサギに託そうとした刹那、鋭い刃が目の前を通り過ぎる。
「君、しつこいんじゃないかい?」
数秒もたたず再び襲いくる剣を、チェシャ猫は尖らせた爪で素早く受け止めた。
「言ったはずだ。逃がしはしないと」
目にも止まらぬスピードで剣を操るエースが、鋭い瞳でチェシャ猫を睨む。
彼も暗黒の魔女の影響は少なからず受けているはずなのに、そんな素振りを見せず剣を振るう。剣はチェシャ猫の脇腹を掠り、服が破けた。
「チェシャ猫!」
一人で負うことになった三月ウサギの重みに堪えながら、名前を呼ぶ。
「避けろ!」
銃を構えた黒ウサギはそう叫ぶと、銃の引き金を引いた。響く銃声。一瞬で玉は的のエースへと向かう。 当たる、そう思ったのもつかの間。エースは器用にも玉を剣で弾き、床へと落とす。
「甘い」
そして直ぐにチェシャ猫の懐に入ると、鍔の先で打撃を加えた。チェシャ猫は体を後ろに曲げて避ける。
「お前もだ、猫」
「僕は甘くなんかないよ」
チェシャ猫が続きを言うよりも早く、エースは素早く体の向きを変えて駆けた。そのまま後ろにひいたチェシャ猫は、とっさのことにエースの動きに対応出来ない。深い青色の瞳は獲物を捉えたように、鋭い光をこちらに向けた。 エースが私に向かって剣を構える。
「させるか!」
状況を理解した黒ウサギが引き金を何回かひく。しかしそれも無駄な抵抗にすぎず、放たれた玉は全て、エースに避けられる。弾丸の雨を抜け、一直線に私に向かうエース。私の頭の中で警報が鳴る。目前にスペードのエースが迫り、そう思った瞬間だった。
左肩にのし掛かっていた重みが消え、垂れていただけのオレンジの髪が目の前で風に靡く。
「死に損ないが、無駄な抵抗を」
「……」
力強く振るわれた剣を、三月ウサギの鎌がはじく。
「平気、なの?」
「道が開いたね」
近くの敵兵を倒しながら、チェシャ猫が呟く。
兵を引き裂くチェシャ猫の素早い身のこなしに見とれながらも、私は首を縦に降った。
「アリス殿に、黒ウサギ殿! 今のうちに逃げるのですぞ!」
「ジャックさん! ありがとう!」
応戦するジャックさんに届くように叫ぶ。
こんなにも心強い味方が現れるなんて、想像もしなかった。
「アリス、チェシャ猫、無事か!」
「私とチェシャ猫は大丈夫。けど三月ウサギがまだ目を覚まさなくて」
「三月ウサギなら平気だ。直ぐにここを出るぞ」
兵士と戦っていた黒ウサギは近くに来ると、素早くウサギの穴を出す。目の前に出現した穴は、時空を繋いでいるのか、どこか異質さを感じる。入るのが躊躇われるような、先の見えない真っ暗な穴。
何度見ても、少しだけ怖い。落ちる感覚も、穴に入るたび時計が見せる記憶もいまだに慣れない。
「よし。先に三月ウサギを穴に入れる。アリス、チェシャ猫、三月ウサギをこっちに」
「うん!」
三月ウサギの崩れそうな体を支えながら、黒ウサギの元へ進む。チェシャ猫も三月ウサギを支えているからかもしれないけど、三月ウサギはいやに軽い。ふとシャツの袖から見えた三月ウサギの細い腕に、不安になった。帽子屋の館を出てから、満足に食べてないのかもしれない。
「後は俺が三月ウサギを」
三月ウサギの体を黒ウサギに託そうとした刹那、鋭い刃が目の前を通り過ぎる。
「君、しつこいんじゃないかい?」
数秒もたたず再び襲いくる剣を、チェシャ猫は尖らせた爪で素早く受け止めた。
「言ったはずだ。逃がしはしないと」
目にも止まらぬスピードで剣を操るエースが、鋭い瞳でチェシャ猫を睨む。
彼も暗黒の魔女の影響は少なからず受けているはずなのに、そんな素振りを見せず剣を振るう。剣はチェシャ猫の脇腹を掠り、服が破けた。
「チェシャ猫!」
一人で負うことになった三月ウサギの重みに堪えながら、名前を呼ぶ。
「避けろ!」
銃を構えた黒ウサギはそう叫ぶと、銃の引き金を引いた。響く銃声。一瞬で玉は的のエースへと向かう。 当たる、そう思ったのもつかの間。エースは器用にも玉を剣で弾き、床へと落とす。
「甘い」
そして直ぐにチェシャ猫の懐に入ると、鍔の先で打撃を加えた。チェシャ猫は体を後ろに曲げて避ける。
「お前もだ、猫」
「僕は甘くなんかないよ」
チェシャ猫が続きを言うよりも早く、エースは素早く体の向きを変えて駆けた。そのまま後ろにひいたチェシャ猫は、とっさのことにエースの動きに対応出来ない。深い青色の瞳は獲物を捉えたように、鋭い光をこちらに向けた。 エースが私に向かって剣を構える。
「させるか!」
状況を理解した黒ウサギが引き金を何回かひく。しかしそれも無駄な抵抗にすぎず、放たれた玉は全て、エースに避けられる。弾丸の雨を抜け、一直線に私に向かうエース。私の頭の中で警報が鳴る。目前にスペードのエースが迫り、そう思った瞬間だった。
左肩にのし掛かっていた重みが消え、垂れていただけのオレンジの髪が目の前で風に靡く。
「死に損ないが、無駄な抵抗を」
「……」
力強く振るわれた剣を、三月ウサギの鎌がはじく。
「平気、なの?」