漆黒の花嫁  ーその手をもう一度

3 アルジール国の王子

 アルジール国の王太子、エルフナルド・ランカスターは、この結婚をもって父であるアシュリー王から王位を継ぐことになった。
 ユリア到着の知らせが王宮に届くと、急ぎ婚姻の儀の準備が進められた。
 知らせを伝えるため、側近のカリルがエルフナルドの執務室の扉をノックした。

「失礼いたします、陛下。ユーハイム国の姫が到着されました。正門へお出迎えをお願いいたします」
「……何を言っている、カリル。そんな時間が私にあると思うのか? 姫が到着したか確認する暇があるなら、少しでも手を動かせ」

 その声には苛立ちよりも、感情を切り離した冷たさが滲んでいた。
 エルフナルドは書類の山に囲まれ、顔も上げずにペンを走らせ答えた。
 カリルは困惑の表情を浮かべ、そばに近づいた。

「ですが陛下、これより姫は婚姻の儀の準備に入られます。直接お顔を合わせる時間は今しかございません」
「婚姻の儀の際に顔を合わせれば十分だ。ユーハイム国の姫に取り繕うつもりは初めからない」

 冷ややかな声色で、エルフナルドは言い放った。

「……かしこまりました。では代わりに侍女を向かわせます」

 カリルはそれ以上言及することを諦め、執務室の前に待機する護衛騎士に、侍女を正門に向かわせるよう指示した。
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