敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
 
「ゆっくりで構いません。ユリア様のペースで、少しずつ慣れていただければ大丈夫です」
「ありがとう……。あの……ひとつ、聞いてもいい?」
「はい、何でございましょうか」
「陛下とは、いつお顔合わせをするの? もうすぐ式が始まるのですよね……?……始まる、のよね?」

 一瞬、アリシアは言葉に詰まった。
 
「陛下はお忙しく、こちらにお越しになる時間がないとのことで……。婚姻の儀で初めてお会いになる予定です」
「そうだったの」

 ユリアは小さく頷いた。

「とても、お忙しい方なのね……」
 
 アリシアは答えず、どこか困ったように微笑むだけだった。
 
 ほどなくして、婚姻の儀が始まった。
 エルフナルドは、神父の立つ祭壇の前に立ち、まだ顔も見ぬ妃の到着を待っていた。
 そういえば、妃となる者がどのような容姿なのか――それすら、全く聞いていなかったことに、今さらながら気付く。
 自嘲気味に小さく息を吐いた、その時、大きな扉が静かに開かれた。
 視線を向けると、そこにはユーハイム国の姫が、真っ直ぐこちらを見つめ立っていた。
 しかしべールに覆われているため、その表情までは分からない。
 ユリアがゆっくりとバージンロードを進み、近づくにつれ、その姿がはっきりと見えてくる。
 
 誓いの言葉が終わり、エルフナルドがそっとベールを上げた瞬間――
 漆黒の髪色には不釣り合いなほど澄んだ、アイスブルーの瞳と視線が重なった。
 一瞬、時が止まったように、エルフナルドは動けずにいた。
 
 その沈黙を破るように、神父が咳払いをした。

「……誓いのキスを」
 
 促され、ふたりは静かに唇を重ねた。
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