漆黒の花嫁 ーその手をもう一度
ジュリアンヌは辺境伯爵の令嬢であり、以前からエルフナルドの妃候補と噂されていた。
舞踏会では常に彼の隣に立ち、将来は自分が王妃になるものと信じて疑っていなかった。
だからこそ、エルフナルドが他の女性と関係を持とうとも気にも留めていなかった。
そしてジュリアンヌもまた、自由に振る舞ってきた。
それは余裕であり、確信であり、揺るがぬ未来への信頼だった。
いずれエルフナルドと結ばれる――そう疑いもしなかったからだ。
しかし、その前提が崩れた今。
ジュリアンヌはしばらく言葉を失った。
やがて小さく息を整え、「分かりました」とだけ告げた。
エルフナルドが、一度決めた事を決して覆さない男だということを、彼女もよく知っていた。
しばしの沈黙の後、ジュリアンヌが静かに口を開いた。
「…エルフナルド様。政略の婚姻であれば、夜のお相手は、今後もしてくださるのですよね?」
そう囁きながら、彼の首元へ指を伸ばした。
「………お前が、それでいいのなら」
「では……もう一度」
ジュリアンヌはそう言って、再びエルフナルドに身を寄せた。
ニ人は言葉を交わすことなく、部屋には微かな吐息と肌を合わせる音だけが響いていた。
――それでも、彼の脳裏から、その存在だけは消えなかった。
ユーハイム国の姫。
名も知らぬ、これから迎えるはずの妻の存在が。