漆黒の花嫁  ーその手をもう一度

「どうにか間に合いました……。とてもお綺麗です、ユリア様」

 額に汗を浮かべながらも、アリシアは満足そうに微笑んだ。

「ありがとうございます。私……こんなに綺麗なドレスを着るのは初めてで……お化粧も、実は初めてなんです」
「えっ、お化粧が初めて……? 本当ですか?」
「は、はい……」

 驚いたように目を見開くアリシアに、ユリアは少し居心地悪そうに視線を伏せた。

「ユーハイム国には舞踏会などがないのですか?」
「いえ……。ただ、私は……あまり……そういう場に出ることがなくて……」

 言葉を濁すと、アリシアそれ以上は追求せず、そういえば――と話し出した。

「ご到着の際、ユリア様がご挨拶してくださっていたのに、急がせてしまい申し訳ありませんでした」
「いえ、お気になさらないで下さい。到着が遅れたのはこちらですし……準備をしてくださる皆様にも、ご迷惑をおかけしてしまって……」

 そう言って、ユリアはその場にいる侍女たち全員に深く頭を下げた。
 すると侍女たちは皆、に目を丸くした。

「ユリア様! どうか頭を上げて下さい。ユリア様は、これから王妃となられるお方なのです。堂々としていて下さい。侍女に、敬語など不要でございます」
「あ、す、すみませ……あ、いえ……その……努力いたします。……努力、するわ」

 慌てて言い直す様子に、アリシアは柔らかく微笑んだ。
 
「ゆっくりで構いません。ユリア様のペースで、少しずつ慣れていただければ大丈夫です」
「ありがとう……。あの……ひとつ、聞いてもいい?」
「はい、何でございましょうか」
「陛下とは、いつお顔合わせをするの? もうすぐ式が始まるのですよね……?……始まる、のよね?」

 一瞬、アリシアは言葉に詰まった。
 
「陛下はお忙しく、こちらにお越しになる時間がないとのことで……。婚姻の儀で初めてお会いになる予定です」
「そうだったの」

 ユリアは小さく頷いた。

「とても、お忙しい方なのね……」
 
 アリシアは答えず、どこか困ったように微笑むだけだった。
 
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