敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった

2 姫の旅立ち

 翌日、ユリアは御者と護衛騎士、わずか二名だけを従えてアルジール国へ向かった。
 アルジール国へは小高い山を三つほど越えなければならず、到着までにはおよそ二ヶ月かかると見込まれていた。
 その長い道のりの中で、ユリアの脳裏には、幼い頃に聞かされたある話がふと浮かんでいた。

 
 この地球上にある全ての国は、ある一つの種族から派生されたものであると言い伝えられていた。
 その一つの種族は、わずかな数でありながら、他の種族にはない特別な力を持ち、崇められていた。
しかしやがて、力を持つ種族の人々は、雲隠れするかのごとく、身を隠した。
 そして世界の人々は皆、やがてその種族の事を忘れていった。

***
 
「ユリア様、本当によろしいのですか?」
 
 声をかけたのは、ユリアが戦争に出るたび護衛を任されてきたセルビアだった。
 
「アルジール国は、未だによく分からない国です。あのような大国が、いくら資源が豊かだからとはいえ、なぜあのタイミングで我が国に攻め入ったのでしょうか」

 セルビアの声には、困惑と不安が滲んでいた。

「しかも、ヘレン団長がいたとはいえ、あの大国が我が国との戦に三年もかかるなんて……未だに信じられません」

 ユリアは静かに目を伏せる。
 そして、ゆっくりと、しかし確かな声で答えた。

「大丈夫よ、セルビア。戦争を終わらせるためには、私が嫁ぐことも条件のひとつだったのだから」

 一呼吸置き、視線を遠くに向けて言葉を続ける。
 
「お兄様が亡くなった以上、戦争を続けても被害が増えるだけ……。でも、やっぱり、最初から戦争を受け入れず、全面降伏すべきだったと思うわ」

 ユリアは悲痛な表情を浮かべ、両手をぎゅっと握りしめて目を閉じた。
 
「そうしていれば、お兄様も、他の兵士たちも命を落とさずに済んだのに……」

 ユリアは小さく息をつき、視線を遠くの山並みに向けた。
 風が頬を撫でる。
 ユリアは胸の奥の痛みを押し込めるように、遠くの山並みを見つめていた。

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