敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
ヘレンは戦場で、幾度となくティーン国の人々のヒーリングの力に助けられてきた。
そして同時に、力を失い命を落とす場面も数多く目にしてきた。
そのため、唯一生き残ったユリアの力を使うことに躊躇していた。
反発する者も多かったが、ヘレンが団長になったことで、その数は次第に減った。
しかしヘレンが不在の際、兵士たちは皆ユリアの力に頼り、周りに群がった。
ユリアが力を失ったとき、人々は絶望し、彼女を非難した。
幽閉される頃には、誰も彼女に近づくことはなかった。
ヘレンは、何度も王に懇願し、ユリアを外に出そうとしたが許されなかった。
戦争から戻るたび、彼は幽閉されたユリアの部屋を訪れ、「出してやれず、すまない…」と、謝った。
***
ユリアは馬車の窓から外を見た。
間近にアルジール国の王宮が見えてきていた。
ユーハイム国の王宮も大きかったが、比べ物にならないほどの威容であった。
王宮の門の前で馬車が止まると、ユリアは馬車から降りた。
「セルビア、ここまで護衛をしてくれてありがとう」
「とんでもございません」
ユリアはセルビアを見上げ、言葉にできぬ感謝を心に染み込ませた。
「ここからはひとりで行くわ」
「……承知しました。どうぞお身体にお気をつけください」
二人が最後の言葉を交わすと、セルビアは深く一礼し、馬車に戻って帰路についた。
ユリアは御者とセルビアの乗る馬車が見えなくなるまで、その姿を見送った。
――ここから先は、誰も守ってはくれない。
間近にそびえ立つアルジール国の王宮を見上げ、ユリアは小さく息を呑んだ。