結婚当日に夫が愛人を紹介してきたから、ヤケで愛人募集したら王弟殿下が志願してきた件。
 そんな声が聞こえて振り返ったときには、すでに人の姿はなかった。ガタガタッと音を立ててアーヴィンは立ち上がり、誰かが出ていったであろう教室の扉から廊下を確認する。
「アーヴィン……?」
「ふん。あんなやつが同じ教室にいるというだけで、腹が立つな」
「私は気にしていないもの」
 私を魔女と表現する人物に心当たりはある。シオドア・ポーレット、彼しかいない。それにあの声はシオドアのものだった。必要最小限の会話でしか関わっていないが、初対面の印象が最悪だったというのもあり、あのときの彼の声はしっかり耳に残っている。
「今日は、ここまででいい?」
「ああ、すまない。ありがとう」
「そうね。『この借りは、いずれ返してもらうから』」
 淑女らしからぬ発言であったが、アーヴィンは「古典にも詳しいんだな」と言ったので、彼もすぐに古典作品の一節を真似たものだとわかったらしい。
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