結婚当日に夫が愛人を紹介してきたから、ヤケで愛人募集したら王弟殿下が志願してきた件。
 私はにっこりと微笑んで答えた。この状況では笑うしかないが、気を抜けばすぐに涙がこぼれそうだった。だから笑うのだ。
 広間に戻るため、くるりと身体の向きを変えると、目の前に人の姿が見えて慌ててしまう。すぐに平静を装うものの、私の動揺は知られてしまったかもしれない。だけど、無視するわけにはいかないだろう。何か、声をかけなければ。
「ごきげんよう」
 私の声で、シオドアもリンダも第三者の存在に気がついたようだ。
「ごきげんよう、イレーヌ」
 さわりと風が吹いて花の香りがいっそう強くなった。
「あら?」
 その声には聞き覚えがあった。いや、忘れたくても忘れられない声。
「なかなか面白い話をしていたようだね。失礼だと思いながらも、つい、聞き入ってしまった」
「アーヴィン……いえ、失礼しました。王弟殿下」
 月明かりに照らされ正装に身を包むのは、国王の年の離れた弟、アーヴィンだ。そして学園時代の私のライバルでもあった人物。
「結婚おめでとう、シオドア」
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