御曹司の溺甘庇護欲が最愛妻と双子を取り戻す
「宏斗さん、おかえりなさいませ」

時刻は十九時半だ。エプロンを着ていないので、今日の仕事を終えるところだったのだろう。

食事の支度がいるのかを心配していると思い、聞かれる前に答える。

「ただいま。食事もコーヒーもいらないよ。母と話をするだけだから。俺に構わず休んで」

「わかりました。それでは下がらせていただきます」

会釈して家政婦が下がると、宏斗はリビングへ足を進めた。

ドアを開けると母がソファに座ってシャンパングラスを手にしている。

テーブルの上にはローストビーフなどのつまみが何種類か置かれていた。

大画面のテレビでは、母のお気に入りのピアニストがショパンを弾いている。

ひとりで祝勝会を開いているような光景に、宏斗の眉間の皺が深まった。

「あら、帰ってくるなんて珍しいわね」

振り向いた母親の赤い唇が弧を描く。

「一緒に飲みましょう。イギリス出張の成果を聞かせてもらうわ」

「社長には電話で詳細を報告済みだ。手応えは十分にあった。再来年の合併は実現する見通しでいる。母さんのせいで、向こうには迷惑をかけたけどな」

酒を酌み交わす気はさらさらない。

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