御曹司の溺甘庇護欲が最愛妻と双子を取り戻す
(ダメ。やれるかどうかじゃなく、やらないと。この子たちの親は私だけなんだから)

電話対応や備品の発注、スタッフへの連絡などの業務をこなして退勤の十八時になった。

「お手伝いできることはありませんか?」

声をかけた隣のデスクには、渚に仕事を教えてくれた三十代の女性社員が座っている。

「ないよ。私もすぐ上がれるから。おつかれさま」

そう言ってから彼女は思い出したように引き出しを開け、なにかを取り出した。

「雪降ってるから、これ使って。妊娠中の寒さは大敵だよ」

手のひら大の使い捨てカイロをもらい、使う前から暖まる気がした。

頼れる人のいない今、小さな優しさが大きく心に響く。

「ありがとうございます。お先に失礼します」

他の社員にも挨拶してから外へ出た。

札幌は十一月から雪が降る。根雪になるのは十二月からだと職場の人に聞いたけど、目の前の郵便ポストの上には五センチほどの雪が積もっていた。

歩道の雪は踏まれてシャーベット状になり、歩きにくそうだ。

マタニティコートのポケットの中のカイロで手を温めながら、最寄りの地下鉄の駅の入り口を目指す。

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