御曹司の溺甘庇護欲が最愛妻と双子を取り戻す
住人かと思って会釈しすれ違おうとしたが、道を塞ぐように目の前に立たれて足を止めた。

黒っぽいジャケットを着た三十代半ばくらいの男性で、四角い顔の輪郭に黒縁眼鏡をかけている。

街灯の弱い明かりの中で見えたその顔にビクッと肩を揺らした。

「繁史(しげふみ)さん……?」

昨年の春に離婚した元夫の岩淵(いわぶち)繁史だ。

「やっと見つけた」

眼鏡の奥の細い狐目が弧を描き、厚みのある口の端がニヤリとつり上がる。

悪い予感がして片足を引くと手首を掴まれ、恐怖で体が震えた。

(や、やめて……)

繁史とは三年ほど前に叔父の紹介で見合い結婚をした。

渚は子供の頃に両親を事故で亡くし家族は八歳離れた兄だけだったのだが、その兄が不治の病で倒れてしまった。

嫁いで兄を安心させるように叔父に言われたのが結婚理由である。

その狙い通り兄の気がかりをひとつ減らせたけれど、繁史との結婚生活は幸せとは程遠いものだった。

支配的な性格の彼は、渚の言動が気に入らなければ手を上げることも日常的にあった。

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