御曹司の溺甘庇護欲が最愛妻と双子を取り戻す

「そうだよ」

夫婦らしく見えるようにという目的でも、恋にならないように耐えている状況でのハグはつらいものがある。

どうしても胸が高鳴ってしまうからだ。

(これは練習。練習だから……)

繰り返し心に言い聞かせてもう半歩踏み出し、宏斗の腕の中に入った。

背中に大きな手のひらがあたると緊張が高まって体が硬くなる。

「まだぎこちないな」

クスッと余裕がありそうな声が耳元で聞こえる。

(宏斗さんと夫婦らしくなんて、私には無理だよ)

鼓動が高まりすぎて胸が苦しい。

呼吸まで乱れそうになった時、やっと腕の中から解放された。

「残念だけど時間切れだ。本当に行ってくる」

「いって、らっしゃい……」

恥ずかしくて宏斗の顔を見られない。

うつむいて玄関の開閉音を聞き、ひとりになってから両手で顔を覆った。

(毎日練習するの? もしかして自然に夫婦を演じられるようになるまで、話し合いはできないと考えているのかも)

元夫との話し合いの段取りは任せてほしいと宏斗に言われている。

それっきりなので、まだ連絡はしていないのだろう。

家賃も払わずにお世話になっているのが申し訳ない。
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