御曹司の溺甘庇護欲が最愛妻と双子を取り戻す
狙いを察した渚は震える声で問い返す。

「繁史さんのお母さんの介護を、私にやれと言うんですか……?」

「嫁の務めだろ」

「今は他人です」

「世の中にはひとりで生きていける女もいるが、お前は違う。バカだからな。もう一度もらってやるって言ってるんだ。感謝して婚姻届にサインしろ」

アパートの方へと腕を引っ張られた。渚の自宅に入って強制的に婚姻届にサインさせるつもりかもしれない。

地獄のような結婚生活に戻されるのは考えただけで恐ろしい。

「来い。携帯番号と勤務先も教えろ」

「やめてください!」

大人しい渚が急に大声を出したので、繁史が驚いた顔をした。

一瞬、力が緩んだ隙に手を振り払い、全力で走りだす。

辺りが暗いのが幸いした。土地勘のない彼は追ってこられないようで、後ろに足音は聞こえない。

それでも捕まえられる気がして恐怖は消えず、息を切らして走り続けて気づけば頑丈な門戸の戸建てやタワーマンションが建ち並ぶセレブな住宅街に来ていた。

(苦しい。もう走れない)

数メートル先にコンビニが見えたので、そこに隠れて呼吸を整えようと思った。

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