御曹司の溺甘庇護欲が最愛妻と双子を取り戻す
ガラスのドアへ駆け寄ったタイミングで中から男性が出てきた。

疲れた足では止まれずに正面からぶつかって、相手を驚かせてしまう。

「す、すみません。本当にすみません」

「いや、大丈夫だけど……渚ちゃん?」

「えっ? あっ!」

渚の名を呼んだその男性は、逸敷宏斗(いっしきひろと)。

短い黒髪のビジネスヘア。額に斜めにかかる前髪の下にはアーモンド形の美麗な瞳。顔立ちは端整で渚より頭ひとつ分背が高く、肩幅が広くてたくましい。

仕事帰りなのかスーツ姿で黒革の鞄とコンビニのレジ袋を提げている。

彼は亡き兄の子供の頃からの友人で、渚も両手に収まらない回数は会ったことがあった。

数年ぶりの再会だった兄の葬儀では、丁寧なお悔やみの言葉をかけてくれた。

「宏斗さん、お久しぶりです。あの、あの――」

葬儀の参列へのお礼を言わなければと思うのに、後ろが気がかりでうまく話せない。

呼吸はまだ乱れていて、元夫に追いつかれそうな気がして体が小刻みに震えていた。

渚のただならぬ様子に宏斗が険しい顔をした。

「なにがあった?」

「追われてるんです。離婚した元夫に」

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