御曹司の溺甘庇護欲が最愛妻と双子を取り戻す
女性としての魅力がもっとあったなら信じさせられたのかもしれないが、今の渚では宏斗の妻には見えないようだ。

夫を演じてくれている宏斗に申し訳なくなる。

「渚」

眉尻を下げた時、優しい声で呼ばれて顔を上げた。

次の瞬間、宏斗に唇を奪われて目を丸くした。

(えっ……!?)

チョコレートブラウンの美々しい瞳がぼやける距離にあり、高い鼻先が渚の頬に触れている。

少し冷たく滑らかな感触を唇に感じて、頭が真っ白になった。

(私、キスされてるの……?)

「やめろ!」

繁史の怒声がして唇が離される。

「妻にキスをしてなにが悪い?」

「渚は俺の――」

「お前は赤の他人で、夫は俺だ。俺の妻に二度と接触してくるな」

宏斗がジャケットの内ポケットに手を入れ、革のケースから名刺を一枚取り出した。

渚も前にもらった、彼の社会的地位がひと目でわかるあの名刺だ。

それを指先に挟んだ宏斗が、マジシャンがトランプを飛ばすような仕草で投げ渡す。

「今回の件は大目に見てやるが、次に渚の前に現れたり不利益を与える行動に出たりした場合は容赦しない。俺を怒らせるなよ」

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