御曹司の溺甘庇護欲が最愛妻と双子を取り戻す
それは十二歳の時のことだ。

決勝のレースで航に指関節ひとつの僅差で負けて二位となった。

プールでは親友を笑顔で称えて握手したが、悔しくてその夜は一睡もできなかった。

翌朝は一番乗りで練習用プールに入り、夜まで泳ぎ続けて倒れ病院に運ばれたのだ。

息子の気持ちなどお見通しだとばかりに母が緩やかに口角を上げた。

「さっきの重役会議、社長に頼られて喜んでいたわよね。張り切っている気持ちを隠そうとする時、あなたは唇を真横に引くのよ。こんな風に」

真似をされて嫌悪感が湧く。

仕事に美容に友人付き合いにと母は忙しい人で、乳幼児期の宏斗は家政婦とベビーシッターに育てられたようなものだった。

父は競泳の試合に何度か応援に来てくれてたまにレジャーにも連れて行ってくれたが、母との心温まる思い出はない。

そんな母性のない人でも観察眼はあるので、息子の些細な表情変化に気づけるようだ。

(俺の心情が読めているなら触れてくるなよ)

兄とは五歳の年齢差があり、入社年数も同じだけ差がある。

今は追いついた気はしているが、二十代の頃の実力差はあきらかだ。

< 97 / 222 >

この作品をシェア

pagetop