月が青く染まる夜に
その瞬間また強く風が吹いて、さっきぐるぐる巻きにしたマフラーがほどける。

私が手で追いかける前に、迅和くんが先にマフラーの先をキャッチしていた。
手が一瞬触れた。そのままきゅっと巻き直される。

「暖かくして来てください」

素っ気ない手つきとは裏腹なやさしい言葉に、またうなずく。
そして口をついて出る、可愛さのないセリフ。

「ミシュランみたいな格好で行ってもいいの?」

「────まあ、いいですよ」

「ウソだ。そんな格好で行ったら、隣歩いてくれないくせに」


信号が変わり、人の流れが一気に動く。
やっと私たちも歩き出した。

横断歩道を渡りながら、肩が少しだけ触れそうで触れない距離。
駅の光が近づくにつれて、胸の奥の灯りも少しずつ明るくなる。

白い息とともに、迅和くんがつぶやいた。

「ちゃんと歩きますよ、隣」


デートなんて言葉は、まだどこにもない。
でも、次が生まれた。

信号が変わるたびに、心も少しずつ進み始めていた。




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