2Kの君~終電帰りの限界OL、2Kの扉を開けたら異世界騎士の部屋でした
「はあ」

 何度目になるか判らない溜息を吐いた凛子に、ベッドに寝転がっていたシェイルは「そろそろ現実を認めろ」と鷹揚に言った。

 結論からいうと疲労困憊の身体に鞭を打って、掃除をした――させられた。

 床に落ちていた……埋め尽くされていた要らないものを片すと、それなりの空間が広がる。

 職業がら溜まっていく一方の雑誌はひとまず目に付くところに積み上げて置く。
 それ以外の明らかに塵と分類されるものについては、自治体推奨の半透明の袋に突っ込んだ。
 殆どが紙ゴミと空き缶にペットボトル。

 実に五袋にもなってしまったそれらの置き場としてひとまずベランダを選んだのだが、その際に、凛子はとんでもない事実に気がついた。

 まず今の季節は夏である。
 しかも夏真っ盛り。
 気象観測史上という言葉が、今年も例に漏れず気象予報士たちによって、馬鹿の一つ覚えみたいに繰り返されている。

 それにも関わらず、薄ら寒い空気。
 むき出しの二の腕を擦りながら見下ろした世界は、しっとりとした靄に包まれている。

 何も見えない。
 夜空も見えなければ、街明りもない。
 まるでこの部屋だけ切り取られてしまったかのように、外には何も無いのだ。

 じゃあ向こうの部屋は? 
 あの古びていて豪奢な、あの部屋の向こうは? 

 ようやっとそこに思いが至ったがいなや、凛子はシェイルの居室だという部屋に飛び込んで濃藍のカーテンを徐に払う。
 透明なガラスの向こうは、同じような靄に包まれていて視界が不明瞭だ。

 今度は騒々しくもう一つの扉へと向かう。
 両開きの重い扉を開くと、黒くしっとりとした夜気のような靄に包まれている。
 戸惑いながらも爪先を出してみると、得体のしれない何かが絡みつくような感覚に陥り、慌てて扉を閉じた。

「なんで?」

 一連の確認作業を終えた凛子は疲れたように、床に敷いた客用布団の上に座り込んだ。
 なぜこの部屋の主である自分が、布団なのかといえば、シェイルが床で寝るのを断固拒否したからだ。
 
 凛子としては別にどちらでもいいのだが。
 というか、別に自分の部屋で寝なくとも、あちらの豪奢な長椅子で寝ればいいじゃないか。

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