どうやら飼い慣らされていたのは、わたしの方だったようです

2.嘆きのテレーズ

「それであんた、テレーズを探してるの?」

「ええ、そうなんですよ。メリ姉さん、なんか知りませんか?」

 あれからジャックは、わたしの家をバスタブの中から戸棚の奥に至るまで隅々まで探した。どう考えてもそんなところにいるはずないだろうに。

 それでも見つからなかったので、今度は思い当たるところをしらみつぶしに回っている。本人である猫のわたしを連れて。

 便宜上、ジャックはわたしの弟子ということになっている。他人をそばに置くのともっともらしい理由が必要だったからだ。一応少ないながらも魔力はあったし。

「ふーん、そうねぇ……」

 メリステリアの目がわたしに向けられる。猫になってしまってから、魔力の流れが全然分からなくなった。これでは自分でこの魔法を解くことは不可能だ。

 けれど、魔女である彼女にはわたしの気配ぐらいは分かるだろう。案の定、その紫の瞳は何かを心得たように輝いた。

「こうなってしまったら、『嘆きのテレーズ』も形無しね」

 トレードマークの橙色に波打つ髪を指先に巻きつけながら、メリステリアが言う。

『嘆きのテレーズ』

 これは、魔女としてのわたしの二つ名だ。曰く、魔法を使う時に必ずため息を吐くからだと。いや別に、毎回ということはないと思うんだけど、本人の知らないところで勝手に付けられて広まった。

「どういうことです?」
「ううん、大したことじゃないわよ」

 にこり、とメリステリアが微笑む。同性のわたしから見ても彼女は美人だ。見つめるだけで男を落とせると評判の蠱惑的な笑み。

「きっとすぐに見つかるわ。魔力の気配はそう遠くない(・・・・)ところにあるから、心配しなくても大丈夫」

 何せ、わたしは今ジャックの腕の中にいるので。
< 3 / 11 >

この作品をシェア

pagetop