どうやら飼い慣らされていたのは、わたしの方だったようです

3.弟子の家

「ただいまー」

 誰もいない家に帰るのに、ジャックはそう挨拶をする。扉を開けてから、そっとわたしを床に下ろす。

 ここが、ジャックが住んでいる家か。

 彼が十三歳になるまでは一緒にわたしの家に住んでいた。半ば追い出すようにして独立を促してからは、町のどこかに家を借りたと聞いていた。

 けれどわたしはほとんど町には行かないから実際に見たことはない。

 人ならばこんなきょろきょろしては不躾になるだろう。けれど、猫ならばなんの問題もない。短い手足でてちてちと歩き回ってみる。

 これといって取り立てるようなものはない。きちんと整えられた清潔感のある部屋。まるでジャックそのもののような部屋だった。どうやら、暮らしぶりは悪くない。

 魔女というのはおしなべて生活能力がない。片付けも洗濯も、魔法でこなせなくはないのだけれど、何せやる気が起きない。

 やりたくないことはやらないのは魔女なのだ。だから、一緒に住んでいる時もいつの間にかジャックがやってくれていた。

 本当なら心配することなど何もないのだけれど、安心と同じくらいの複雑な何かが湧き上がってくる。

「猫って何食べるんだろう……やっぱり魚かなぁ」

 ジャックはわたしの様子など気にせず、保管庫の食材を漁っては机の上に並べていく。なんだかよい香りがして見てみれば、その中にエルベリーとチーズを見つけた。

「にゃー」

「あ、それがいいのか? 今日せんせいに渡そうと思ってたやつなんだけどな……」

 わたしの好物だ。魔女にとっての食事は、あったらあったでいい、なかったらなくてもいい。その程度で人間にとってのおやつくらいなものだけれど、好きなものを食べるのにはそれなりの幸福を伴う。

「まあ、せんせいがいつ帰ってくるか分からないしな。また買えばいいか」

 そう納得して、ジャックはエルベリーとチーズを小さく切って平らな皿に載せてくれた。

 そして、自分にはパンとありあわせのもので簡単に食事を用意する。グラスにはワインを半分程度注いだ。銘柄はわたしの気に入りのもの。

 ジャックがお酒だなんて生意気だ。

「にゃっ」

 グラスにかりかりと爪を立てたら、ジャックが笑う。「お前にはまだ早いよ」

 それはこっちのセリフだ。子供のくせにお酒だなんて。
 わたしが抗議の意を込めてしっぽを揺らしても、ジャックは意に介さない。

「じゃあ、これをあげるから」

 代わりにミルクを小さな皿に入れてくれた。ぴちゃり、とわたしはそれを舐めるしかなかった。

 お腹がいっぱいになって手で顔を撫でていたら、机の上に置かれた小さな箱が目に入った。
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