どうやら飼い慣らされていたのは、わたしの方だったようです
質素な部屋の中で、ベルベット張りのそれはひどく異質に見える。
これは一体、なんだろう。何が入っているんだろう。
手を伸ばそうとしたら、ふっとそれが浮かび上がった。
「ったく、とんだいたずら子猫ちゃんだ」
ぽんとわたしの頭を撫でたかと思うと、ジャックはその箱を大切そうに掲げた。
「これは大事な人に渡すつもりのものなんだ。だから、だめ」
たれ目がちな目が愛おし気に細められる。青い瞳には、まるでわたしには見えない何かが見えているかのようだった。そうして、そのまま彼は箱を引き出しにしまい込んだ。
ごろんと寝台に横になってジャックが言う。
「もう寝るか。今日はなんだか疲れたな」
わたしも疲れた。何せ、朝起きたら猫になっているだなんて、夢にも思わなかった。
ぴょんと寝台に飛び乗った。敷布の上でくぅーと伸びをする。
もう眠ってしまおう。もしかしたら、明日目が覚めたら人間に戻れているかもしれないし。
「さてと」
そう呟くと、おもむろにジャックは上着を脱ぎ始めた。途端に引き締まった体が露わになる。そのままズボンも脱いだかと思うと、すとんとした夜着に着替えていく。
こんなところで着替えないで、と思ったところでここは彼の家である。そして「寝る時にはちゃんとパジャマに着替えなさい」と教えたのはわたしだ。
見てはいけないと思うのに、目が逸らせない。
ひょろりとした印象だった手足にはきちんと筋肉がついている。どこからどう見ても、今や立派な大人の男だ。
「にゃー」
思わず鳴いてしまったら、しなやかな腕が伸びてくる。そのままぎゅっと抱きしめられた。
「よしよし。一緒に寝ような」
ぴたりと体が密着する。薄い夜着は体温を全て伝えてきてしまう。
とくとくと、皮膚の下で規則的に脈打つ鼓動とジャックの匂い。懐かしいような気もするけれど、ひどく胸がざわめく。逃れようにもこんなにもしっかりと抱きしめられていたら身じろぎすらできない。
同じ上掛けにくるまりながら、ジャックがわたしの瞳を覗き込んでくる。
「お前、せんせと同じ色だ。きれいだな」
きれい、という言葉に心臓が跳ねた。
わたしは黒髪に緑色の目だ。毛並みもそうだから、目もきっと同じ色をしているのだろう。それはきっと猫としての何かで、人間としてのわたしには関係がない。
そう分かっているのに、甘えたような鳴き声が零れる。
「にゃっ」
すぐそこで、長い睫毛が揺れている。応える代わりに、ジャックはそっと慈しむように猫のわたしを撫でた。
「せんせ、会いたかったな」
掠れた低い声が頭の上から降ってくる。心地いいのにぶわりと毛が逆立っていくような不思議な感覚。
「おやすみ」
けれど、件の本人はわたしの毛に顔を埋めたかと思うとすやすやと眠り始めた。人の気――いや今は猫の気と言った方がいいのかもしれないけれど――も知らないで。
昔はわたしがジャックを抱きしめて寝かしつけたのに、これでは完全に逆になってしまった。
これは一体、なんだろう。何が入っているんだろう。
手を伸ばそうとしたら、ふっとそれが浮かび上がった。
「ったく、とんだいたずら子猫ちゃんだ」
ぽんとわたしの頭を撫でたかと思うと、ジャックはその箱を大切そうに掲げた。
「これは大事な人に渡すつもりのものなんだ。だから、だめ」
たれ目がちな目が愛おし気に細められる。青い瞳には、まるでわたしには見えない何かが見えているかのようだった。そうして、そのまま彼は箱を引き出しにしまい込んだ。
ごろんと寝台に横になってジャックが言う。
「もう寝るか。今日はなんだか疲れたな」
わたしも疲れた。何せ、朝起きたら猫になっているだなんて、夢にも思わなかった。
ぴょんと寝台に飛び乗った。敷布の上でくぅーと伸びをする。
もう眠ってしまおう。もしかしたら、明日目が覚めたら人間に戻れているかもしれないし。
「さてと」
そう呟くと、おもむろにジャックは上着を脱ぎ始めた。途端に引き締まった体が露わになる。そのままズボンも脱いだかと思うと、すとんとした夜着に着替えていく。
こんなところで着替えないで、と思ったところでここは彼の家である。そして「寝る時にはちゃんとパジャマに着替えなさい」と教えたのはわたしだ。
見てはいけないと思うのに、目が逸らせない。
ひょろりとした印象だった手足にはきちんと筋肉がついている。どこからどう見ても、今や立派な大人の男だ。
「にゃー」
思わず鳴いてしまったら、しなやかな腕が伸びてくる。そのままぎゅっと抱きしめられた。
「よしよし。一緒に寝ような」
ぴたりと体が密着する。薄い夜着は体温を全て伝えてきてしまう。
とくとくと、皮膚の下で規則的に脈打つ鼓動とジャックの匂い。懐かしいような気もするけれど、ひどく胸がざわめく。逃れようにもこんなにもしっかりと抱きしめられていたら身じろぎすらできない。
同じ上掛けにくるまりながら、ジャックがわたしの瞳を覗き込んでくる。
「お前、せんせと同じ色だ。きれいだな」
きれい、という言葉に心臓が跳ねた。
わたしは黒髪に緑色の目だ。毛並みもそうだから、目もきっと同じ色をしているのだろう。それはきっと猫としての何かで、人間としてのわたしには関係がない。
そう分かっているのに、甘えたような鳴き声が零れる。
「にゃっ」
すぐそこで、長い睫毛が揺れている。応える代わりに、ジャックはそっと慈しむように猫のわたしを撫でた。
「せんせ、会いたかったな」
掠れた低い声が頭の上から降ってくる。心地いいのにぶわりと毛が逆立っていくような不思議な感覚。
「おやすみ」
けれど、件の本人はわたしの毛に顔を埋めたかと思うとすやすやと眠り始めた。人の気――いや今は猫の気と言った方がいいのかもしれないけれど――も知らないで。
昔はわたしがジャックを抱きしめて寝かしつけたのに、これでは完全に逆になってしまった。