どうやら飼い慣らされていたのは、わたしの方だったようです

4.瞬きするような時間

 ジャックは元々、どこかの裕福な商家の生まれだった。
 けれど、両親と馬車で仕入れに出かけている途中で落石事故に巻き込まれてしまった。

 この辺りを縄張りにしていたわたしは、たまたまその場を通りかかった。どこかの魔女を訪ねるとかそんな途中だったと思う。

 運が悪かったなと思った。そして、よくあることだとも。

 父親と母親は、その時点でもう事切れていた。けれど母親は子供をしっかりと抱えていて、その母親を庇うように父親が折り重なっていた。

 だから、ジャックだけはかろうじてまだ息があった。

 その時、自分が何を考えていたのかはもう覚えていない。
 ただこの手には救える力があって、そこにまだ生きている子供がいた。それだけだ。

 わたしは大きくため息を吐いた。

 そのまま魔法で落石と壊れた馬車を浮かせて、ジャックを助け出した。目立った怪我はしていなかったが、いくつかあったかすり傷に治癒魔法もかけた。

 親族はいたようだが、不吉な子供と言われたジャックを誰も引き取ろうとはせず、仕方がないからわたしが育てて現在に至っている。

「……にゃん」

 寝返りで腕の力が緩んだところで、そっと這い出す。この体だとため息をつくこともままならない。

 窓から差し込む月明かりが、ジャックの顔を照らしている。昼間は精悍そうに見えた顔立ちも、寝顔はちっとも変わらなくてどこか幼さが滲んでいる気がする。

 本当に大きくなったと思う。子供なんか育てたこともなかったから探り探りだったけれど、ジャックはとても聞き分けのいい子だった。

 あれから十二年か。

 はじめて会った時、ジャックは自分の名前と年が六つだということだけはちゃんと答えられた。
 抱き上げた小さな体が、ひどく軽かったことを覚えている。

 魔女にとっての十年二十年は、瞬きするような時間だ。そうしてわたしが瞬きをしている間に、ジャックは大人になった。

 もう一度瞬きをする頃には、ジャックはわたしを追い抜いていくだろう。

 仰向けになったジャックの右手が、手繰り寄せるように敷布を掴む。

「……んせ……っ」

 ジャックの寝言が聞こえた。何を言っているかまでは、分からないけれど。

 あの、強く結びつくように抱きしめ合っていた彼の両親を思い出す。

 魔女は一人でも生きられる。けれど、人間はそうではない。ジャックもきっと、家族を求めるだろう。それが人にとって、当たり前のことだから。

 ちゃんと分かっているつもりだ。
 ぽかりとジャックの足元に落ちた月明かり。わたしはその中で丸くなって、また眠ろうとした。
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