顔も知らない婚約者様の御子を一夜で授かりまして

 そうだ。あの王が、グレンソン公爵が想定していた以上にずっと、青臭かった。
 真っ当すぎたのだ。

(ありえるか? 四年も、見つからない人間を探し続け、あんな風に大切にするなど)

 しかも相手はリーヴス侯爵令嬢。リーヴス侯爵家は天秤を家紋に掲げる家だけあって、どうにも融通が利かない。だからわざわざ手を回して、あの令嬢の悪評を広め、社交界から追い落とそうとしていたわけだが。

 コソコソと市井に出ていたようだから、なにか醜聞(スキャンダル)でもないかと探らせた。思わぬ収穫があったときは喜んだものだ。
 たまたまアビゲイルという駒も手に入れ、あの令嬢との入れ替えを計画した。

 ただそこで、まさかあの令嬢が妊娠しているとは思わず、興味をなくしたのが間違いだった。

(あの令嬢が、私が思っていたよりずっと強かったというのか)

 いくら市井に出ていようと、所詮は貴族令嬢だ。
 財産もなく王都を追い出されれば、どこかで野垂れ死ぬしかない。そう思い捨ておいたが、子を孕み、育て、ああも慈しんでいたとは。

 国王とともに王城へやって来たリーヴス侯爵令嬢と、その子ラピスを見て驚いた。目に光が宿り、このグレンソン公爵に対しても折れず、真っ直ぐ見つめてくる胆力を持っていた。

 そのときに気がついたのだ。
 あの令嬢、爪弾きにされていたのではない。もとより群れることに重きを置かない、孤高の存在だっただけだ。

 なにかと市井に出ていたのもそう。てっきり厳格な家に押し潰された令嬢が、息苦しさに耐えかねて夜遊びに走っている、と。その程度の認識だった。

 しかし、あの女は自分の足で立つ場所を、自分の手で作ろうとしていた。
 そうだ。腹立たしい意味がわかった。
 あの令嬢、根っこの部分であの国王とそっくりなのだ。
 それが四年、揉まれて力をつけて帰ってきたとなると、アビゲイルなどが敵う相手ではない。

「――まあ、いい」

 グレンソン公爵は、自分に言い聞かせるように呟いた。

 まずは、あの子供だ。『星の子』の身柄さえ確保すれば、計画の根幹は揺るがない。
 あの若き国王は、ゆっくりと始末すればいい。
 本人の心を折り、まともに動けぬようにした上で他国へ売り飛ばすのが理想だが、最悪、暗殺してもいい。

(それにリーヴス侯爵令嬢も使えるかもしれんな)

『星の子』を産んだ母体だ。再び『星の子』を産むなどありえないが、迷信を信じこみそうな後進国の貴族にでも売り飛ばしたら、ありがたがるだろう。
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