顔も知らない婚約者様の御子を一夜で授かりまして

(……さて)

 まずはアビゲイルに全ての罪を背負わせ、処刑させる。
 死人に口はない。あの女がなにを喚こうと、証拠は残さない主義だ。あの断罪の場での醜態とて、養女の暴走に心を痛める養父を演じきった。あとは粛々と処理するだけのこと。

(あとは偽の子供か)

 ロニーにはまだ使い道があるかもしれない。
 加護の有無にかかわらず、幼い子供というのは便利な駒だ。同情を引くにも、人質にするにも、あの年頃がいちばん都合がいい。

 グレンソン公爵は暗闇の中で、冷徹に駒の配置を組み替えていく。
 崩れた盤面を前にしても、その目に焦りはない。この程度の想定外など、長年の仕込みに比べれば些事にすぎない。

「まあいい。予定が少し変わっただけだ」

 そう言って、ひとつ息をついた。

「――少し、出る」

 部屋の隅に待機する侍従に一言だけ告げる。
 アビゲイルを見つけ、ここに連れてきた男だ。

 長年、グレンソン公爵と共にしてきた侍従には、公爵の行動も読めていたのだろう。侍従がサッと広げたコートに袖を通した。

「行き先はリーヴス侯爵邸でよろしいでしょうか?」

 侍従の言葉に、グレンソン公爵は口の端を上げる。この男はよくわかっている。

 ああ、と返事せぬとも通じたのだろう。侍従は馬車を回すため、足早に部屋を出ていった。
 さて、と窓の外の景色を見る。
 そこには重たい雲に覆われ、星のひとつも見えない夜空が広がっている。
 まるでこの国の行く末を暗示するかのような、漆黒の夜空だった。


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