顔も知らない婚約者様の御子を一夜で授かりまして

 実は今、カティアの前には他国の王侯貴族からの婚姻の申し入れが殺到していた。それも、大量に。
 テーブルの上に積み上がった釣書が、その証拠だ。しれっとセオ宛のものも混じっているが、日を追うごとに増えていくそれは、今や小さな山のようになっている。

 セオがカティアを妃に迎えたいと主張しているのは周知の事実だ。あの出迎えの場での態度を見れば、誰だってそう察するだろう。

 しかし、周辺諸国から見れば、カティアはただ『星の子』を産んだだけの平民でしかない。元侯爵令嬢とはいえ、勘当された身。正式に王族入りなどできるはずのない、よくて妾という立場だろう。
 この国の上層部の意見としては、『星の子』さえ確保できれば十分。王妃にはもっと権力を持った他家の令嬢か、他国の王族を迎えるのが妥当だろう――というのが、大方の見方だった。

 つまり、カティアの立場は宙に浮いている。
 そこに目をつけた各国が、善意とも打算ともつかぬ申し出を寄越してきたのだ。

 カティアを娶れば、『星の子』の実母としてシュタルド王国次期国王との直接的な繋がりができる。
 シュタルド王国側にとっても、カティアを差し出すだけで他国と縁を結べる。
 双方にとって利がある、というのが各国の言い分であった。

 ――もちろん、そんな理屈をセオが受け入れるはずもなく。届くたびに不機嫌になるセオをなだめるのが、最近のカティアの日課になりつつある。

(ごめんね、セオ)

 おそらく、カティアがひとこと「うん」と言えばいい。そうすれば、彼には周囲を黙らせる用意はあるのだろう。
 カティアの姿勢が中途半端なせいで、すっかり待たせてしまっている。

 わかっている。今のままではいけないと。
 でないと、釣書の山を見るたびに、セオとレスターが言い争いをはじめてしまいそうだ。
 それはそれで微笑ましくはあるけれど――大丈夫、理解している。

(あと少し、待っていてね)

 ケジメをつける心づもりはあった。
 そのときには、あの守り袋を渡して、自分の言葉で想いを伝えよう。

 だから――。


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