顔も知らない婚約者様の御子を一夜で授かりまして
もしかして、と、カティアは目を見張った。
この人、「じじさま」と呼ばれることに動揺しているのだろうか。
どう見ても、あの鉄壁の表情が崩れかけている。あの厳格な父が孫可愛さに心をかき乱されているとでもいうのだろうか。
カティアの衝撃をよそに、リーヴス侯爵はこほんと咳払いをし、何事もなかったかのように続ける。
「私とそこにいるあなた様の母君とは、すでに縁が切れてございます。慣れ親しくしてよいはずがございません」
ラピスが小さく首を傾げる。
「なかよくしちゃいけないの?」
「仲良く、と申しますか……」
「かあさまは、じじさまのことだいすきなのに。だめなの?」
空気が、止まった。
カティアの心臓も止まりそうだった。
リーヴス侯爵がギギギギギ、と、壊れたゼンマイ人形の様にゆっくりとカティアの方を見る。その目には驚きと衝撃と戸惑いが入り交じっている。
カティアも内心では冷や汗をかいていた。
(ラ、ラピス……それは今言わなくても!)
とはいえ、嘘ではない。嘘ではないのだ。
カティアも気持ちを落ちつけるため、一度、深く息を吸った。そして、改めてリーヴス侯爵と向き合う。
「――お久しぶりです、リーヴス侯爵」
お父様、と呼びそうになった。
喉元まで出かかったその言葉を、ぐっと飲み込む。今はまだ、その距離ではない。
「よろしければ、座ってお話をしませんか?」
カティアに促されるままに、リーヴス侯爵が席に着いた。
カティアはその向かいに、そしてカティアの隣にラピスがちょこんと座る。
リーヴス侯爵はなにを語るわけでもなく、じっとこちらを見ている。見定めようとしているのか、はたまた別の思惑か、先ほどよりも表情がずっと強張っている。
「まず、これまでのことを、お詫びさせてください」
だからカティアから話を切り出した。