顔も知らない婚約者様の御子を一夜で授かりまして
(3)カティアを探しに ※セオ視点
◇◇◇
「落ち着きませんか?」
背後からの声に、セオはぴたりと足を止めた。振り返ると、レスターが扉の前に立っている。
――ここは、カティアに与えた居室だった。無意識のうちに足が向いていたようだ。
「……ああ。まあ、少しな」
「少し、ですか。もう三往復はされていますが」
……わざわざ観察してから声をかけるとは、中々に良い趣味をしている。
しかし、レスターに声をかけてもらえて、幾分か気持ちも紛れるというもの。
今、カティアはリーヴス侯爵と会っている。
それが彼女にとってのけじめだということは、わかっている。
本当はセオ自身もリーヴス侯爵と腹を割って話したかった。
知らなかったとはいえ、婚約者がいる女性に正体を隠して手を出したのだ。国王の立場上、やすやすと頭は下げられないが、ひとりの男として謝罪せねば気が済まない。
しかしカティアは、まずは自分が話したいと言った。国王が同席すると父が萎縮するからと。
だから今回は彼女の気持ちを優先した。――したのだが、気持ちは一向に落ち着かず、カティアの部屋をうろうろしている始末だ。
しかし、その時だ。ぴくりと、レスターの表情が変わった。
「どうした?」
「今、少し。ありえない魔力の動きを感じまして」
レスターが眼鏡に指を添え、目を閉じる。
セオ自身もなかなかの術者ではあるのだが、レスターはその比ではない。
しかし遠くからの魔力感知は、レスターほどの術者であっても容易ではない。空気中の微細な残滓を拾い上げ、流れを読んでいるようだが、表情はどうも険しい。
「なんだこれは。いきなり大きな魔力が動いたかと思えば、一瞬で消えた? ――これは。いや、しかし、そんな。ありえない」
ぶつぶつとなにかを呟きながら、今度はレスターの方が部屋を歩き回っている。
一体なんだと、セオも怪訝な顔つきで魔力の気配を探ってみる。
その静寂の中、突然バタバタと足音が聞こえてきたと思えば、勢いよく扉が開いた。
「陛下!!」
フロゥだ。息を切らし、顔面蒼白で駆け込んでくる。
「カティア様が! リーヴス侯爵とともに消えました!」
「は?」
「転移です! オレたちの目の前で、リーヴス侯爵が転移魔法を展開されて」
「転移魔法だって!?」
転移魔法と言えば、禁忌魔法の一種だ。理論上は可能だが、何人もの人間が死と引き換えに執り行うほどのもので、使用が禁止されている。
そもそも行使者自身にも大きな危険が伴うため、使用は現実的ではない。
(それに、カティアが巻き込まれた……!?)
血の気が引き、反射的にセオが動き出す。
「今すぐ追う」
「ですが、どこに転移したかすら」
「っ、追うと言っている!」
せめて現場に行けばなにかわかるかもしれない。レスターとフロゥが止めようとするも、セオの決意は揺らがない。
しかしその時、高い声が、廊下から響いた。
「とうさま!!」
遅れてやってきたラピスが、決意の滲む瞳で訴えかけてくる。
「ぼく、かあさまのいるところ、わかるよ!」