顔も知らない婚約者様の御子を一夜で授かりまして

(4)暗闇の向こうに


      ◇◇◇

 ――寒い。

 カティアが最初に感じたのは、肌を刺すような冷たい空気、そして酔いそうなほどの魔力の奔流だった。
 まだ身体の中がぐるぐると渦巻いているような感覚がする。

 冷たい石畳の感触。窓がないここは、どこかの地下だろうか。
 ただ、地面に描かれた魔法陣の光が淡く視界を照らしている。

(なに、これ……)

 頭がうまく働かない。
 だって、魔法陣だなんて前時代的なもの、どうして――と思ったその瞬間だった。

「あっ! ああぁっ……!」

 リーヴス侯爵の呻きが聞こえてきた。
 一気に覚醒し、カティアは頭を上げる。すぐそこには、両手で目元を押さえながら地面に転がるリーヴス侯爵がいた。

「お父様!」

 考えるより先に、その呼び名が口をついて出ていた。
 すぐに父に駆け寄るも、周囲の光景に絶句する。

「――――っ!?」

 魔法陣の周囲に何名もの人間たちが倒れているのだ。
 全員肌が青黒くなり、事切れている。これは魔力を急激に奪われた際起こる、中毒症状ではないだろうか。

(まさか、転移……!?)

 一瞬にして、自分の身になにが起こったのか理解し、腕の中のリーヴス侯爵に目を向ける。

(お父様は、まだ……!)

 転移は、恐らく父が持っていた魔石かなにかが媒体として発動した。その起点となったリーヴス侯爵の身体にも、大きな反動があったのだろう。

「お父様! お父様っ!?」
「あああ、ぐ、ぁあああ!」

 転げ回る目元から、異常な魔力が溢れ出している。

「お父様! 落ち着いて!」

 魔力は瞳に宿ると言われている。
 負荷に耐えきれず暴れる魔力が、父の瞳を傷つけているのだ。

(このままでは、目が……!)

 逡巡した。
 魔力を抑えないといけない。カティアには、その手段がある。
 でも、これは父が嫌い、排除しようとした加護だ。『夢喰』を使ったと知られれば、きっとまた父に軽蔑される。
 ――それでも、迷っている暇などない。

「お父様、ごめんなさい……!」

 リーヴス侯爵の目元にそっと手を当て、意識を集中させる。
 淡い金色の光が指先からじわりと広がり――。

「どういうことだ!?」

 しかし、そのとき、怒号が地下室を震わせた。

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